シナリオ作家志望に限らず、創作を志す者にとって、映画を見、その作品の良い点悪い点を吟味することは大変重要である……くらいのことは分かっているのだが、これだけ旧作新作ある中で、そして、こちらの自由な時間に限りがある中で、なにを見るのか? は頭の痛い問題である。
だから、本作「ビリー・ワイルダーのロマンチィック・コメディ」は、あまり見ることの無かった古き良きアメリカ映画達を見る良いきっかけになった。
と言えば聞こえは良いが、正直に言おう……。ここで取り上げられている3作のDVD
お熱いのがお好き(特別編) [DVD]
アパートの鍵貸します [DVD]
昼下りの情事 [DVD]と共に本作
ビリー・ワイルダーのロマンティック・コメディ 『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』『昼下りの情事』を買ったが、これら計4作が手元に届いてみると、その量に圧倒されてしまった。そして、DVDは後回しにして、手っ取り早く、本作だけを読んで済まそう、という不埒な考えを持ってしまった。
だが、本作を読み進むにつれて、その極めて緻密な分析に圧倒され(と言うか、細かすぎて、何が何やら分からなくなり)、本作を活かす為には、DVDも見ないことには話にならない、という事実を突き付けられたのだった。
で、
お熱いのがお好き(特別編) [DVD]→
アパートの鍵貸します [DVD]→
昼下りの情事 [DVD]を順番に見た。最初は、めんどくさいなあ、と思いながら……。
だが、
お熱いのがお好き(特別編) [DVD]が思いの外面白く、いつも間にか引き込まれた(マリリン・モンローは、今の基準から言っても色っぽい!)。そして、続けて見た
アパートの鍵貸します [DVD]に、ものの見事にノックアウトさせられた。おばさんになったシャーリー・マクレーンしか知らなかったが、こんなにも可憐でほのかな色気もある、魅力的な女優だったんだ……。ジャック・レモンの演技も良かった。
早くもワイルダーの虜になり、これら2作は自分にとってのオールタイム・ベスト10入りを果たした。そんな興奮冷めやらぬうちに本作に戻った。今度はいやいやながらじゃあない。寧ろ積極的にだ。
惚れた女のことなら、どんな些細な事も知りたい、というのが男の生理。これは良い映画も同じだ。惚れた映画の魅力をここまで詳細に分析してくれている本作は、もう手放せなくなった。
とは言うものの、休日の2日で3作目は一寸きつい気がした。そう、
昼下りの情事 [DVD]が残っていたのだ……。だが、気を取り直してDVDを見た。最初は正直、先の2作には劣るかな、と思った。が、見続けるうちに、その印象が間違いであることに気づいた。この映画も、僕にとって忘れられないものになった(オードリー・ヘプバーン演じるヒロインがべらぼうに魅力的だった)。
瀬川裕司先生の、本作における映画作品の選択はまったく間違っていなかったわけだ。
素晴らしい3作品の思い出を胸に、本作のページを繰るのが、僕にとっての新しい楽しみになった――それは、好きな作品に惚れるファンの心理もあるが、それだけではなく、映画作品の持つ企み(たくらみ)というか、そういう一流の創作作品の凄みを目の当たりにして、とても刺激になるのだ――(ワイルダーも凄いが、それを洩らさず書き表した瀬川先生も凄い、と素直に思う)。
中々見る機会の少ない作品を魅力的に紹介してくれた、本作に感謝! である。
もはや説明の必要もない、後期ワイルダーの傑作。笑いとペーソス、さまざまに張られた伏線、粋な脇役などどれをとっても一級品の名作です。あらすじ、主なみどころなどは他の方におまかせするとして、私はこんなところも面白いと思います。
・小道具がいろいろ
鍵、ひげそり、テニスラケット、オリーブの茎など、それぞれがただの小道具ではなく、意味を持っています。
・隣人夫妻がよい
医者のだんなさんと面倒見のいい奥さん。それぞれいい味出してます。
・シャーリーマクレーンがかわいらしい
特にエレベーターガールの時のジャックレモンとの会話シーンでの彼女はかなりいいですね。
・会話がおしゃれ
ウイットに富んだ会話が多いので、ぜひオリジナルの
英語のダイアログで味わいたいです。
・ラストがかっこいい
このころのこの手の映画は最後は抱擁またはキスシーンで終わるのが多いのですが、このラストはまさに粋。ワイルダーならではです。
・日本題がいい
原題"The Apratment"に比べて、この映画のもつ雰囲気などがよくあらわれています。
とにかく何度でも楽しめる、奥の深い映画です。
1960年の映画で、ビリー・ワイルダー監督のなかでも傑作の誉れ高い1本で、
アカデミー賞の作品賞や監督賞など主要5部門を受賞している作品。
ストーリーは、
ニューヨークの大手保険会社に勤めるサラリーマンのバクスター(ジャック・レモン)は、出世のために、自分のアパートの部屋の鍵を上司の不倫のために予約制で貸している。
ある日、人事部長からアパートの鍵を貸してくれと依頼を受ける。相手の女性は、同じ会社のエレベーター・ガールのフラン(シャーリー・マクレーン)だった。
しかし、フランはバクスターの密かに思いを寄せる相手だったのだ。
フランを一途に思うバクスターと、家庭持ちの人事部長に振り回されるフランの心情を、なんとも切なく描きながら物語は展開していく。
やがて、バクスターは部屋を貸している努力が実り管理職に昇進するが・・・
ビリー・ワイルダーの脚本が見事で、女心と男の見栄や優しさを上手く描いている。
また、主人公のジャック・レモンの情けなさを表現した演技も最高だ。
いじらしくも思えるし、かわいらしくも思えてしまう。
そして、大して美人でもないシャーリー・マクレーンがやけに可愛く魅力的に見える演技にも感心させられる。
小道具の使い方も流石で、スパゲティーの水を切るテニスラケット、銃声に思わせるシャンパンと、時にはユーモラスに、時にはドラマティックに使いこなす。
特に上手いと思わされたのが割れた鏡のエピソードで、この鏡はバクスターに、アパートを人事部長と使ったのがフランであることを気付かせると同時に、バクスターにとって、フランという女性のイメージが壊れたことを示しているし、フランの心情をも見事に表現している。
映像も、しっかりと丁寧に作られており、見るものを釘付けにする。
出世という名のエレベーターを故障させたのは、エレベーター・ガールとの恋であったという最高のオチを持った、僕ごときが言うまでも無い傑作コメディー映画で、まるで映画の教科書のような作品だと思った。