ジブリ映画で有名な野坂昭如氏の同名小説のコミック版です。
表紙はこの文庫シリーズ共通の、原作者をイラストにしたもので、漫画の絵柄は裏表紙を見てもらうとわかります。
私は裏表紙の絵を見て即買いましたが、このMANGA BUNKOシリーズの他の作家さんたちと比べると、親しみやすく読みやすい絵だと思います。ホーム社のHPで数ページの試し読みが出来ます。
三堂司氏の描く節子がたまらなく可愛いのですが、母親の死や親戚に邪険にされ傷付き、飢えや病気で痩せこけ変わり果てていく姿は見るに耐えません。
清太が節子の長い髪を三つ編みに結って、「かわいいで」と言ってあげますが、その節子には元気いっぱいで目をキラキラ輝かせ無邪気に笑っていた、かつての面影は無く・・・。そして石ころをご飯だと言って「どうぞおあがり」と差し出す目も虚ろな節子を見て涙する清太、この二人の兄妹に私も涙が止まりませんでした。
敗戦後、薄暗い防空壕の中で小さな一つの命が消え、妹の面倒見のいい優しい兄、清太も駅の構内で野垂れ死にします。
兄妹一家全員が、戦争によって悲惨な死を遂げる、誰一人救われる事のない結末は、戦争を経験した作者が戦争の凄惨さを私達に訴えたかったからではないか、と今更ながらに思います。
先にも書きましたが、三堂司氏の描く節っちゃんがホントに可愛いので是非読んでみて下さい。
高畑勲監督の『火垂るの墓』(製作・
新潮社)は、ご存知の通り、宮崎駿監督の『となりのトトロ』(製作・徳間書店)と2本立てで、昭和最後の年、ゴールデンウィーク前に公開された。
オレは当時、東宝系の劇場で『火垂るの墓』を観て強い衝撃を受け、特に年配の女性の方を中心に「こういう映画があります」と口コミで伝えることに精を出し(オレが話す大雑把な“あらすじ”に、涙ぐまれる方も少なくなかった)、実際に、母などを連れて行ったりもした。各方面で、そういったような口コミの効果があったのか、当時「2本立ての2本目は割引」を行なっていた最後の回―現在の「レイトショー」が始まるぐらいの時間に、すべての上映が終わる―は、年配の、主に女性のお客さんで少しずつ混みあうようになって行った。
『火垂るの墓』が凄かったのは、このあたりの、実際に戦争を「知っている」世代の方々からみて、劇中の時代や人々のありようがリアルに描かれていたばかりでなく、実体験としての戦争というものを「知らない」世代にとっても、ある意味、きわめてリアルな世界を提示してみせた、ということだったと思う。
本書の冒頭に配された山田洋次監督のインタビューは、確かに―同業者の作品を語ったものとしては―巧みな、深い「読み」には欠けているかもしれないが、戦争を「知っている」世代がこの作品に感じたリアル感というものに気づかせてくれる、という意味において、優れたイントロダクションになっているのではないかと感じた。
本書は、これまでに出た書籍やビデオグラムなどの中に収められた『火垂るの墓』関連の文章やインタビューなどの再録、もしくは文字起こしによってその多くを構成されており、既にそういったものにひと通り触れている方にとっては退屈なものかもしれないが、こういったものが集められ、ひとつに凝縮されることによって、不思議な緊張感が生じているのもまた、事実だ。
正直に言って、必要のない文章もないことはないけれど、《
ジブリの教科書》シリーズ恒例となっている、大塚英志さんによる「『火垂るの墓』解題」の鋭さや、2013年に亡くなった、アメリカで最も信頼されていた映画評論家のひとりであるロジャー・イーバートさんらによる、海外での『火垂るの墓』の評価や反響について伝える文章―amazon.comで、本作の
英語タイトル“Grave of the Fireflies”で検索すると、あまりの高評価に驚くことになる―など、「目からウロコ」な部分も、また多い。
そして、なんといっても本書の中で最も面白いのは、「できるまで」を追った部分だろう。
新潮社に入社間もなく『火垂るの墓』製作委員会の一員となった村瀬拓男さんが明かす、劇中歌われる北原白秋の「あめふり」の替え歌をめぐる、著作権継承者との駆け引き。
『火垂る』と『トトロ』を同時に担当することになり、この2作品のために250色の絵の具を新たに作った、色彩設計・保田道世さん。
加えて、鈴木Pによる打ち明け話。ここにチョコチョコ出てくる宮崎駿監督の存在感、そして宮崎監督に負けず劣らず、いや、もしかするとそれ以上の“スゴい人”っぷりを高畑監督がみせるあたりは、立ち読みでもいいので必読、と書いておきたい。
本書全体で、およそ20ページがカラー、もしくは色がついており、その多くは、キャラクターデザインと作画監督を務めた近藤喜文さん―1998年、47歳で急逝。『火垂る』および『トトロ』の制作開始にあたっては、高畑・宮崎両監督のあいだで、腕の立つ近藤さんの争奪戦となった―の、本作での仕事ぶりを伝えるものとなっている(ちなみに本作には、作画
スタッフとして庵野秀明さん、撮影
スタッフとして大地丙太郎さんがそれぞれ参加しているが、本書の中では
スタッフ・クレジットに名前が記されているのみとなっている)。
『火垂るの墓』、ときいて心がざわつく方であれば、とりあえず読んで損のない一冊といえるだろう。
なお、
『火垂るの墓』のシネマ・コミックは、本書に少し遅れて刊行されている。
アニメを観て表題作を二度読んだd。これから何度も読むことだろう。ばかげた戦争がなければ死ぬこともなかった節ちゃん。一家そろって生きていればどんなに幸せを享受できたことだろう。読めば野坂氏独特の文体、私は
京都弁で育ちましたが
神戸弁との微妙な違いがよくわかる。ああ、しかし近代日本において何故4歳で栄養失調死しなければならないのか? 日本は第3世界だったか? もう二度と起こすまいばかげた戦争。大人が起こす戦争で犠牲になるのはいつの時代も若者子ども。虎は死して皮を残す。野坂氏はこの一作で小説家として後世にに残る。節ちゃん、天国で白いごはんをお腹いっぱい食べてください。