第八回日本ホラー小説大賞の大賞受賞作品ですので、文章は例に漏れず、文句なしに玄人レベル。
しかし申し訳ないのですが、今までの大賞受賞作品に比べるとやや見劣りしてしまいます。第二回『パラサイト・イブ』、第四回『黒い家』、第六回『ぼっけえ、きょうてえ』…二年に一度ホラー史に残る傑作を輩出してきた賞の受賞者だけにレベルは勿論かなりのものですが、難点はテーマが弱くどうしても印象に残りにくいという所です。
一回読んで少し経ったら、どんな話だったか忘れてしまいました。
書評にもありましたが、日本版『シャイニング』のような話です。
少しずつ狂気に捕らわれていく様を上手く書けるのは筆力の賜物でしょうが、折角ここまで書けるなら、もう少し独創的なアイデアが欲しいところです。
それと
タイトルから連想できるインパクトが弱い作品。再考の余地はありますね。
亜熱帯の蒸し暑い気候の中、少しずつ背筋が冷えていくような建物一画の様子が鮮明に頭に描ける描写は見事。地元の言い伝え、噂、少女期の微妙で不安定な心の機微など、さりげなく挿入していく恐怖演出が、平凡な題材をありきたりなパラノイア作品のまま終わらせず、端正な小説に仕立上げています。
しかしホラーよりも精神医学関係の話の方が面白く書ける方かもしれません。
文章で読むかテーマで読むかによって好き嫌いの分かれる作品でしょう。少なくともホラー初心者にはおすすめできません。