連載開始から15年目にして9巻目が出ました。劇中では4年くらいの時間経過です。
固い線で描写される少し影のある人物造形が好きで読み続けています。
ただ、単行本で9冊ですが、休載期間が長かったせいか、主要人物のキャラクターもはじめの頃とはずいぶん変化しました。自分の生き方や社会に漠然と疑問を抱いていた主人公は、写真スタジオに就職が決まったあたりから、日々の仕事を黙々とこなしながらふたりのヒロインの間で揺れているだけの役どころになり、繊細だけどエキセントリックでやたらと元気の良かったハルは、当初の勢いが失われ、主人公が自分を振り向いてくれるのをただ待っている純情な女の子になり、シナコは死んだ恋人のエピソード以来、いつも困った顔をしてうつむいているメロドラマのヒロインのような状況が続いています。はじめの頃の等身大の若者としての魅力が色あせ、3人とも受け身のキャラクターになって身動きがとれずにいるという感じです。
メインの3人が停滞したまま関係性も膠着状態なので、ストーリーはおもにわきの人物たちのエピソードへと移っています。そこでの個々の人物描写は魅力的なんですが、新たな登場人物を出すことで話をつないでいく展開は少々散漫な印象を受けます。登場人物を増やすよりも、メインの3人の内面の掘り下げと成長のほうにウェイトを置いてほしいところです。また、舞台の中心が
美術予備校や美大へ移ったのも、とりあえず書きやすい場と書きやすい人々のほうへ舞台を引っ張ってきたという感じで、いまひとつ新鮮味がありません。(ライブではじけている木ノ下さんが描かれることはないんでしょうか。)
主人公が自ら望んで入った写真スタジオがどういう職場で、彼はそこでの仕事にどんな魅力を感じているのか、あるいは彼が何を思いながら仕事に取り組んでいるのか、実際の写真スタジオを取材した上できちんと劇中に提示してほしい。新しい環境での主人公の心情描写がないまま、登場人物たちの群像劇が進行しているので、物語の軸が失われてしまっているように見えます。
それにハルはもっと元気よく走り回って自分から事件を巻き起こしてほしいし、その勢いで主人公を振りまわし、彼女の見る新しい風景を読み手にも見せてほしい。シナコはもう悲劇のヒロインを演じるのをやめて、はじめの頃の物事の核心をつく才媛ぶりを取り戻してほしい。そんなもどかしさをおぼえる9巻でした。
建築士の友達に勧めたら面白かったと言ってました。厳しい世界で働いているのでこれを読んで和んでもらえればと思いましたが効果ありました。