著者の作品は、どうしてこう暖かいのだろう。
「背番号0」、「スポーツマン金太郎」、「暗闇五段」の三作が著者の代表作だが、それ意外にもたくさんの作品がある。
そして、どれも登場する少年たちは生き生きとしている。
生命力に満ちあふれている。
思えば、著者が最も活躍した昭和30年代は、世間はまだまだ貧しかった。
だが、大人たちには未来への希望があった。
それが、少年たちに活気、元気、生きる力を与えていた。
だから、著者の作品に登場する少年たちは、みんな明るく、そしてけっして希望を失うことがなかった。
叩かれても、最後には必ず立ち上がった。
私は著者の作品の中では、「背番号0」が大好きだ。
少年野球チームのメンバーであるゼロくんが主人公だが、野球の話ばかりではなく、友情、愛情、信頼、責任、家族、仲間といった、子供たちにとって大切なものをテーマにしている。
そして、そこに必ず暖かい大人の存在、少年たちを見守る大人の大きさが、同時に描かれている。
子供たちにとって大人は、自分たちの力の及ばないときには助けてもらい、しかし必要以上の干渉はされない、という、とっても理想の存在に描かれている。
実際に昭和30年代の大人がみんなそうだった訳ではないが、著者の理想とする大人と子供の関係、あるべき大人と子供の姿が描かれていたのだと思う。
それは、「スポーツマン金太郎」に登場するプロ野球関係者やマスコミ関係者でも同じだ。
今、改めて著者の作品を読み返して、私ははたして、そういう大人になったのだろうかと考えてしまった。
子供たちが、自分もああいう大人になりたい、と思うような大人が少なくなり、世の中から未来への希望がなくなったため、著者は作品を発表しなくなったのかもしれない。
大人がしっかりすれば、子供たちもキチンと成長する、というのが、著者が作品に込めたメッセージなのかもしれない。
さて、「暗闇五段」だけは青年が主人公だ。
結構な長編であり、かつて若き
千葉真一主演でテレビドラマ化もされた作品である。
私は幼い頃に、ドラマ版をリアルタイムで見ている。
千葉氏主演のドラマとしては「七色
仮面」や「アラーの使者」のようなヒーローものとは異なり、かなりヒューマンドラマだったことが、氏の役者としての成長に役立ったのではないかと思う。
これもまた、心温まる良い作品である。
今の時代では、著者の作品は古くさいだろう。
説教くさいと感じるひともいるかもしれない。
しかし、こういう良い作品は、子供たちに必ず良い影響を与えるはずである。
どんな時代でも、子供たちの心には変わりはない。
だから今、こういう作品をもっともっと読みたい、いや、子供たちに読ませたいと、願うものである。