暫く、川又千秋氏の架空戦記からは遠ざかっていましたが、これは圭作です。
まず、
戦艦武蔵の逆襲。これは、栗田艦隊謎の反転、をベースにレイテ湾突入を
実現させる、という巧い設定。若干、佐藤大輔氏の「征途」に似たところも散見
されるものの、主力と切り離された武蔵が独自行動で志摩艦隊と合流、という
ところがお見事です。文体もラバ空時代から全くブレていません。
そこで大和は空振りで本土に戻るわけですが、その後の菊水作戦を弄ったのが
大和戦闘機隊始末記。ネタバレはしませんが、ラバ空の読者なら思わずニヤっ
としてしまう設定。こちらはもう少しフネそのものを追って書いてもよかったと
思います。付録資料部分のボリウムからすると、こちらは実戦記なので、文献
や小説も多いし、ネット上にも種々読めるものがありますので。
ラバ空を、少々強引に「翼に日の丸」で丸めこんで完結させた筆者ですが、ブレ
ない文体の面白味と感嘆詞の使い方等は、ある意味、懐かしさを感じる1冊です。
以前、SF雑誌に連載された川又千秋の作品を幾つか読んだことがあるが、正直あまり良い印象を持っていなかった。しかし、これは素晴らしい。非常にリアルな架空戦記に仕上がっている。しかし、その分、南雲を東雲、山口を川口、小澤を大澤と言い換えるのは余分だったのではないかと思う。
1980年代の東京、1940年代の
パリとNY、2131年の
火星へと、舞台を変えながら、19歳で伝説的ヴィジョナリーとなった青年「フー・メイ」の綴った詩篇「時の黄金 L'or du temps」が、人類を危機に陥れる。
英訳版に掲げられた巽孝之による長大な序文は、ディック『
火星のタイムスリップ』と響きあう作品として本作品を位置づける。
シュルレ
アリスムの本質は何か、ディックのそれがヒッピー世代の二次的変奏だったとすれば、それはまだ終わっていないのではないか、などと、本作品を通してシュルレ
アリスムの歴史的役割についても思いをいたらせた。
なお、文章はラノベばりに読みやすく、3時間くらいであっという間に読破できた。