世に有名な「元寇」を、手柄を立てたい坂東武者、属国高麗の将兵、そしてすべての元凶フビライの側近など、多角的な視点から描いた力作です。
主人公は、のちに「蒙古襲来絵詞」を残した竹崎季長(すえなが)という御家人ですが、ある事情から、この戦いでなんとしても大手柄を立てねばならない立場に追い込まれます。
しかし、いわゆるこの「文永・弘安の役」は、その戦いのほとんどが北
九州の水際で行われたため、主人公は壮大な合戦シーンに恵まれません。大将首を求め戦場を右往左往する主人公には一抹の滑稽味さえ感じられます。
(余談ですが、作者岩井三四二の歴史小説は、常にこの明るさと滑稽味があり、私は好きです。)
派手な合戦シーンはありませんが、それぞれの立場からこの戦役を描いたおかげで、戦記としての奥行きがあります。特に、
モンゴル帝国の、南宋がらみの政治的な事情や、こきつかわれる高麗王朝の、生き残るための必死な面従腹背ぶりなどがリアルで、本書を単なる「集団チャンバラもの」でない、深みある一大政治ドラマにしています。
よく知られた家臣以外の家臣を主人公にして、主人公が当初思ってもみなかった秀吉という人物の姿に気づかされるといったストーリー立てで、物語を紡いでいて、読みやすくそれなりに面白かったです。