細川幽斎を中心の三成、家康、さらには朝廷をも巻き込む壮大な企みが渦を巻く面白い読み物だ。第1に信長を討ったのは細川、明智の仕業の設定が奇抜である。さらには古今伝授をめぐる朝廷、細川の策略。連判状をめぐる細川、前田側の略奪線等どんどん引き込まれていく。戦国時代小説でこれほど朝廷との駆け引きを描いた作品は初めてだ。公家など登場人物になじみがなかったものの、すばらしい作品になっている。歴史小説205作品目の感想。2009/11/16
書籍は古書で十分だと思っている、何回も読み返すことはたいていないので 一度読んだだけの本が古書になってしまうのは、もったいないし、こんないいものを 提供していただけるのは、ありがたいことである
こんな人物がいたのか!彼なくせば、明治維新はなかった! 彼を知れたことに、とてつもない満足がある。彼は、財政改革を断行する。そのためには、悪にも手を染め、贋金作り、密貿易さえ厭わない。同時に、人材も発掘し、西郷、大久保を見出す。藩主重豪(しげひで)の命令=「万古不易の備え」に命をかけて挑む。斉興(なりおき=重豪の子)にふたりまでも子どもを殺害される。それでも改革の炎は消さない。意外だったのは、英明の誉れ高き斉彬(なりあきら=斉興の子)。斉彬こそ、私は明治薩摩の恩人だと思っていたので、動揺した。最後に、では、どうして、☆が5つではないのか? それは、エンディングが不満だから。あまりにもむごく、あまりにも唐突に、作家は彼を殺した。彼の最期に、もっとふさわしい場を用意できなかったのか? 読者としての抗議で、☆は4つにした。
いつも安部龍太郎の作品は自分が持つ歴史観を変えてくれる。彼の作り上げた氏郷の人間性も独特で面白い。 秀吉による竹ヶ鼻城攻め(小牧・長久手の戦い)のところでは、備中高松城と同じ水攻めを行ったのだが、巨大な堤防を僅か5〜6日で築けたのは、既に西洋から幾何学を利用した三角測量法が伝わっていてそれを利用したことを初めて知った。 蒲生家が近江日野にあったので近江商人を通じた経済観念が強く氏郷に植えつけられていて、伊勢松坂に城下町を築く際に貿易を優位に行える様に有力商家の誘致・町割りを行ったことや楽市楽座の導入、徳政令の未来永劫廃止といった政策を実行したことが氏郷に対する今までのイメージと違うところであった。 その伊勢松坂で氏郷はローマ法王への使節を派遣した歴史的事実は衝撃的だった。彼のカトリックへの信仰の篤さも尋常でなかっただろうし、新しい文化・学問を取り入れようと様々な分野で才能のある家臣を選抜し派遣したというのは、非常に貪欲な彼の一面を見たようであった。 蒲生家が伊勢松坂12万石から陸奥会津42万石に移封されたものの実質は減収であったことにはびっくりした。新領地が全く内陸であったために松坂で行った貿易が出来なくなってしまったためである。 一番大きく歴史観を変えてくれたのは秀吉の朝鮮出兵に対するもの。日本国内で軍事的優位性を構築するには鉄砲に欠かせない硝石・鉛の輸入を独占することが必要で、明を植民地に加えたいイスパニア(ポルトガルは1580年に併合)に協力する必要があった。秀吉の朝鮮出兵(文禄の役: 1592年)はイスパニアが明攻撃を行う為の先兵となったこと。ところがイスパニアに梯子を外された形になってしまった。イスパニアの無敵艦隊が1588年のアルマダの海戦で英国に完敗しており、喪失した制海権を取り戻せず明攻撃が行える体制ではなかった。 ほかにも面白い点が多々あるのだが書き過ぎるのは良くないのでここまでとしたい。
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