題名通り、「何故イスラエルに次々とイノベーションが生まれるのか ?」という疑問に対して豊富なケーススタディを通じて回答した書。"イノベーション"は"
起業家精神"と置き換えても良い。著者の一人はイスラエル出身で現在アメリカ在住、他方はその逆でアメリカ出身で現在イスラエル在住という組み合わせ。普段、イスラエルの経済について気に掛ける事などなかったので、興味深く読んだ。
一番"目から鱗"だったのは、イスラエルが小国(人口710万人)であるからこそ、国全体(あるいは基幹部)に係わる新システムの創造といったイノベーションを起こす気風が生まれるとの言説である。まさに逆転の発想で、これは日本の自治体などにも参考になるのではないかと思った(政治の分野では既に起きている)。後はやはり、イスラエルが建国以来強いられている極度の軍事的緊張が関係しているようだ。軍事技術からの転用が多いのは想像の範囲内だが、徴兵制度及び特別な訓練プログラムを通した軍務経験の大きな影響力が強調されている。軍務(特に実戦)においては肩書きは意味を持たず、個人の能力だけが重視される。上官に対して反論する事も重要な仕事の一部である。これが、社会・企業における自由闊達な気風を生み出しているとの言説である。これを日本の風土にそのまま持って来る事は出来ないが、ある程度は参考になるのではないか。また、電気自動車の開発に関して、それが敵対国のアラブ諸国の武器である石油の意義を殺ぐという発想に(幾分かは)動機付けされている辺りは如何にもイスラエルらしいと感じた。「移民の国=
起業家の国」という言説も成程と思わせるものがある。著者自身がモザイク的構成と言う通り、この他にも多くの事由(ユダヤ人独自のコミュニティ、技術しか生きる術がなかった歴史的背景など)が紹介されている。
著者達の立場からすれば致し方ないのかもしれないが、イスラエル贔屓の傾向(例えば、同じように徴兵制度を敷いている韓国、シンガポールに対する独断的とも言えるイスラエル優越性の主張)が目立っていたり、軍事システムに関する記述が必要以上に過多だったり、イスラエルとアメリカとの特別な関係を敢えて無視していたりとやや鼻に付く部分もあるのだが、全体としては読み応えのあるレポートに仕上がっていると思う。