著者は物語を構成する「場」の設定が実に巧みである。お台場にある大
手石油会社宣伝部に勤めるキャリアウーマンの美緒は23階のオフィスビ
ルから東京湾を隔てた品川埠頭をみおろす。その品川埠頭で汗と埃にまみ
れてフォーク
リフトを操る亮介は近くのアパートに暮らす。この2人をめ
ぐる淡くも切ないラブストーリー。
この東京湾で隔てられた2つの「場」そしてその雰囲気が2人のキャラク
ターを設定する。そしてその視点やすぐ近くに見えるが、行けば遠い位置関
係が二人の恋愛をめぐる心の距離や心の風景を実にうまく象徴している。肌
と肌とを重ね合わせても心はピッタリ重ならない。何かはっきりしない結末
も今時の恋愛を象徴するのか?
文章は切れ味鋭く、テンポも速い。ユーモアもちりばめ一気に読めた。
ただこれだけいろいろ工夫して設定してもなぜかキャラクターのイメージに
希薄なところがある。それはなんなんだろう?もう少し具体的な肉付が--
そのための仕掛けとか小道具とか--必要ではないかとおもった。
豊作