雑誌に掲載済みの短篇が三つ、そこへ表題作の書き下ろし中篇を加えたシリーズの四巻.
三巻までが二度復刊されているのに対し,この巻は前回の復刊時に新たに出た続きの巻で,
そのため,
07年08月の刊行以来,ハヤカワ文庫からの今回が初の復刊ということになります.
短篇については,地上でのエピソードなど,どちらかと言えば番外篇のような雰囲気で,
登場する某アイドルもどきらに,これらの発表された00年前後という時代を感じながらも,
そこから10年以上経っている現在も,彼らが現役ということに妙な驚きを覚えてしまいます.
中篇の方は,ガールたちの活躍や,トラブルと大胆な解決策と,これまでの三冊に近く,
本作の発表時(07年)には,まだ宇宙をさまよっていた『はやぶさ』をモチーフにした篇.
その後,方法は異なるものの,『本物』の方も帰還に成功しているのが感慨深いところです.
短中篇ということもあり,よく言えば軽め,逆に言うなら少しの物足りなさはありますが,
多くの人との出会い,また空から地上の人々や暮らしに思いをはせる主人公の姿が印象的で,
宇宙飛行士となり,数々の困難を乗り越えてきた彼女の成長が伝わるよい場面となっています.
二度目の復刊となるシリーズの一作目.(
95年03月に初文庫化→
06年10月に最初の復刊)
一つ一つの章が比較的短めで,章の中でもこまめに場面を変えて進む流れはテンポがよく,
冒頭からポンポンと人物やキーワードを投入,あっという間に中へと引き込まれていきます.
また,宇宙に飛び立つまでの『地上パート』までは,どちらかと言えばコミカルさが強く,
そんな中,変人たちに囲まれながらも,度胸と負けん気の強さで乗り越えるヒロインに加え,
天然なのに実はしっかり者というもう一人の少女,二人のコンビのやり取りが実に魅力的です.
地上を離れることになる中盤過ぎからは,徐々に空気も変わり,苛立ちが緊張はもちろん,
『死』への意識や恐怖が見え隠れし出すなど,それまでとの対比もあって印象的に映ります.
文字通り,死の淵からの脱出,帰還となる終盤では,少し都合のいい部分も確かにありますが,
それくらい些細なこと,と押し切れるだけの勢いと情熱がが本作には漂っているように感じます.
専門的な言葉もところどころに出てはきますが,わからなくても大きく困ることはありません.
全体的に明るく,アツく,ビシッと締めて最後は軽くオトす,楽しく気持ちよく読める一冊です.
なお,『あとがき』が新たに追加,初出から20年を経た現在の宇宙開発事情が語られており,
作中に登場する技術に絡め,進化やそれらの実現の度合いなど,興味深い内容になっています.
前置きのない始まりからのトラブル発生と,冒頭から中に入りやすいのは良いものの,
これ以降,宇宙へと飛び立つあたりまでは,訓練風景もそれほど深くは描かれておらず,
感情移入や話の積み重ねという点では,これまでの巻より物足りなさが残ってしまいます.
また,主人公の勝ち気な性格が,鼻についてしまう場面が
前の巻あたりから目立ち出し,
このほか,ガール二人が似ているという展開も,語られるほど効いてこなかったのも残念.
とはいえ,冒頭で起きたドタバタが伏線として絡むなど,宇宙に出てからは盛り返し,
希望から一転する絶望,それまでからは想像もつかない主人公の様子は生々しさを伝え,
そこから正に二人三脚となる大脱出は,緊張と興奮のクライマックスに繋がっていきます.
何より,何も無い月面に思いをはせる少女の姿は,ともにその先を願わずにはいられません.
なお,本書は
99年08月に初文庫化,
07年01月に続き,今回が二度目の復刊となっています.