読んでみて、これは著名人の話題本でも、一プロ野球選手の単なる成功物語なんてものでも全くない。プロ野球選手としての仕事を30年間続けてきた山本昌という人間の生きざまが実直に語られており、職業人として共感と爽快な読後感を抱いた。実力と実績が厳しく問われるプロ野球の過酷な競争世界を生きる47歳の彼は「悪あがき」と言うけれど、それを継続する意思の源泉はどこにあるのだろうか。イージーゴーイングと対極にあるような、特急
列車でもなく、ゴトゴトと走る「路面電車」のような生き方、その軌道を彼は一体どのようにして敷いてきたのか、今後もどこまで延長するつもりなのだろうか。興味深く、知りたいところである。その答えは、本書の、野球との出会い、キーになる人との邂逅、挫折、葛藤、転機、克服などの各章に、実に生身の人間ドラマとして語られており、感銘深い。圧巻は終章の「僕の思考法」だ。野球の仕事とファンを本当に愛すればこそ、今に全力投球する、それは「悪あがき」ではなく、人間としての崇高な挑戦といえる。思わず、がんばれ、山本昌!と声を挙げたくなる。