ムーンライダーズの楽曲に翳りを帯びたロマンティシズムや憂いをもたらしていた、かしぶち哲郎の最初のソロアルバム。 その最良のエッセンスが最高のミュージシャンたちによって奏でられる。 素晴らしいメロディ、心揺さぶられる歌詞。 華麗な編曲が施されたセカンド『彼女の時』とはまた違った一点物の職人仕事のような温もりと味わい。 物憂げな曲が並ぶ中で古いミュージカルナンバーのような矢野顕子とのデュエット『屋根裏の二匹のねずみ』、 そして子供コーラスが愛らしい『Listen to me,Now!』が異色。
(追記 2013年12月 かしぶち氏逝去の報を聞く。ムーンライダーズ、そしてソロ活動や映画音楽の作品を通して永い間本当に良質な音楽を生み出し続けてこられた事に心からの感謝、そして哀悼の意を捧げたい。R.I.P)
このCDは、ムーンライダーズもYMOも聴いたことがないという老若男女にも、是非聴いてもらいたいと思う。一曲目でぶっ飛ぶ(?)人が必ずいるはずである。エンディングにふさわしい雰囲気を持った「砂丘」というこの曲を、冒頭から聴けるというのもなかなかオツなものである。 「アバンギャルドな感じは苦手」という人にも全曲お薦めできる。なぜなら、彼の曲はどの曲も、どんなにサウンドが変化しようともそうした変化に負けないだけの存在感を持ったメロディを持っているから。彼の真骨頂はメロディラインにあるのだ。「ちょっと昔のヨーロッパの映画音楽が好き」という人だったら、絶対に損することはないと断言できる。 不満がないわけではない。とくに、「砂丘」と同じムーンライダーズの1stに入っている?紡ぎ歌」が選から漏れたのは、後悔されなければならない。「大好きな曲」とかしぶち氏が言っていたこの曲は、彼の無国籍(=多国籍)サウンドの、「砂丘」とは異なる方向性を持った楽曲として見逃すわけにはいかないものなのである。 このCDとは直接関係ないが、彼のソロ作品の中で「リラのホテル」だけが特筆される傾向があることにも注意を促しておきたい。
ミッシェル・ルグランのストリングアレンジを筆頭に余りに流麗なプロダクション。 安易なイージーリスニングに堕落することもなく、気障が鼻につくこともなく、洗練された音の中に感傷や郷愁そして嫉妬など繊細な感情表現が渦巻く。 このような世界を描いて様になる日本人は亡き加藤和彦とかしぶち哲郎のみだ。 俳優 石田純一への提供曲のセルフカヴァー「Egoiste」は隠れた名曲。
(追記 2013年12月17日にかしぶち氏逝去。あまりに早すぎる死に言葉もない。氏が残した典雅でロマンティックでありながら孤独と憂愁を懐いた音楽、それは唯一無二の存在として永遠に聴かれ続けるべきだと改めて思う。心からご冥福を祈る)
赤色エレジーからいうと、40年近くになるんですかね。ずーっとあがた森魚師と共に昭和から平成へと生きてきた人間としては、感慨深いものがあります。”はちみつぱい”のメンバーやら、”ムーンライダース”のメンバーやら、過去のアルバムに参加した矢野顕子さんやら、入り乱れての懐メロ大会のようで、それぞれの時代を知っている者からすれば、涙なくしては観られません。みんな歳をとったなあ。でも、それを受け入れてこのDVDを観て僕らも頑張りましょうか!
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