プレーンソング (中公文庫)
なんでもないようで何かが起こっているような。
実際ありえないような男女の四人の共同生活が、
こんなにもさらっと、自然に読めてしまえる。
なんでもない日常を書いているんですけど、それが不思議と心地よい☆
小説の自由
小説家は一体何を目指しているのか、と思うことがたまにあります。人生とはかくあるべし、と読者に教えたいのか。明らかに違うでしょう(そういう人も中にはいるでしょうが)。こんな人生もある、と知らせたいか。それはあるかもしれない。小説を書こうという気になったことがない私にとって、小説家の書く動機というのは興味がありました。
著者はこう言います:「小説とはまず、作者や主人公の意見を開陳することではなく、視線の運動・感覚の運動を文字によって作り出すことなのだ」。おーっ、なるほど。運動が起きればそこに何かが生まれる可能性があるわけですね。それは作者も予見できない何かなのでしょう。
作家は評論家が嫌いのようで、本書でも結構世の評論家諸氏が槍玉に挙げられており、そのこき下ろし方が面白いです。
カフカ式練習帳
この本に書かれた断片を読んでいると、ふいに全然関係ない自分の記憶が去来することが何度もあった。
想像するに、著書はふだん本を読まない人を読者として想定している。
ふだん本を読まない人はベストセラーのような一般に「面白い」と言われる本をつい選んでしまう。しかしその基準がつまらないからこそその人たちは本を読まなくなった。
そういう人は耳を澄ますところ、逆に集中せずに注意を漠然とさせておくところが違うのではないか。というか、この本の面白さに何日も浸った自分を考えるとそういうことなのではないかと思う。
本は最初のページから最後のページまで一気に(直線的に)読まないと気が済まない人のためだけにあるのでなく(これを拘束と感じないだろうか!)、あちこちのページを自由にめくりたい人のためにもある。小説の自由を体現する小説。
書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)
なんだかすごく、真剣に読みました。
初回読んだときも線引っ張って読んだけれど、
今回も、線をさらに重ね、ページを折り、メモを取り、
すっごく真剣に読みました。
小説を書きたいと一度も思ったことはありません。
今だにただのひとつも、小説など書いたことはありません。
でもそこに、小説を通して「世界の構成の仕方」が書かれていたので、
しかもひたすら真剣に、真摯に書かれていたので、
ぼくも真剣に読んでしまったのです。
ぼくには「世界の構成の仕方」がわからなくて、
本当に、いつもいつも、苦しい思いをしています。
とても濃い本でした。
こんなに、一冊の本の色んな箇所を
引きずり込まれるように、真剣に対話しながら読んでしまうことはまれです。
重みのある弾を、ぼくに何発も撃ち込んできます。
ずし、ずし、ずし、ずし、ずしっときます。ずずずって。
ま、好きな人はとことん好きで、
無縁な人にとっては、とことん無縁な本だと思います。
季節の記憶 (中公文庫)
世界は穏やかに流れる。
毎日自分のペースで生活しながら、世界のあれこれを考えたり、感じたり。
特に何かが始まるわけでも、終わるわけでもない物語です。
こういう“なにも起きない小説”があってもいいと思う。
確かに何も起きないけれど、読み終わった後には心に何かが芽生えているようなそんな感じ。
登場人物と一緒に感じたり、考えたりしているような気分になります。