6年前のある日、僕は何気なしに、NHKにチャンネルを合わせた。画面に映し出された初老の男がギターを弾く姿に強くひきつけられ、ビデオの録画ボタンを急いで押した。 ニューヨークのブルーノートで行われたライブの風景。"JAZZ LIVE FROM NEW YORK LATIN ARTIST SPECIAL"とある。時折映し出される観客の顔には、提供される酒にではなく、この男の作り出す音色への陶酔がはっきりと表れている。クラシックもラテン音楽も全くわからない僕でも、彼の演奏するバッハの『主よ、人の望みの喜びよ』には流れる涙を止めることができなかった。 録画したこの演奏をその後何度再生しただろうか。しばらくして男の名前を知った。バーデン・パウエル。同時に彼がこの世を去ってしまったことも知り、愕然とした。彼の演奏をもう生では聴くことができないのか・・・。 彼は1999年と2000年にブルーノートで演奏しており、このCDは2000年の時の演奏である。私が録画して所有しているのは、この演奏と違うので、1999年の演奏の時のものだろう。NHKはこのライブの映像を是非再度公開して欲しい。 --------------------------------------- 先に書いたレビューから、二年の月日が経つ。幾度となくこのアルバムを聞いたが、その感動はまったく衰えることがない。その間にも様々なアーティストが奏でる「主よ、人の望みの喜びよ」を耳にしたが、バーデン・パウエルの演奏を超える感動を与えてくれたものはない。目を瞑り、彼のギターの音色に耳を澄ませば、眼前には二千年前にイエスが生きた大地の風景がよみがえり、乾いた土の匂いが漂うかのようだ。この曲は彼のギターによって奏でられるために生み出されたのではないだろうかとさえ私には思えてならない。
ヴィニシウス、本当にすばらしいです。
大詩人でありながら、大衆音楽の作詞も数多く手懸け、そのすべてがすばらしい。外交官としても有能だったらしいです。
文学的には伝統を尊敬しながら大衆の心情に合う詩を作ったらしい。音楽的には年下のアーティストらと組み、白人音楽と黒人音楽を融合させ、洗練され斬新なリズムのボサ・ノーヴァやアフロ・サンバを作った。
偉大な人物にもかかわらず、気取ったところが少しもない。気さくな人物です。
映画では彼が愛と友情に生きた様が紹介されています。大酒飲みで女好きのヴィニシウスですが、人生は一回きり、地位や財産よりも「愛」に生きるべきと自覚していたんでしょうね。人生の意味を表面でなく、魂の深い部分から追求した人ということがよくわかります。
僕もヴィニシウスのように生きたい。
バーデン・パウエルは20世紀が生んだ世界最高のギタリストの一人である。このCDは昔から何度もジャケット・デザインを換えて再発されているバーデンの1960年代に演奏された代表曲を集めたベスト・アルバムだ。今や古典だがバーデンが最も脂ののった時期の演奏であり、どの曲、演奏も素晴らしいので、いつになっても再発されるのだろう。ここでは自作曲の他にボサノヴァの名曲もカバーしているが(タイトルもそうだが)、彼のギターの本質はいわゆるボサノヴァではない。アフロ・サンバと呼ばれる、サンバと、より土着的なブラジル音楽がそのルーツであり、ボサノヴァの響きを最も感じさせるジョアン・ジルベルトのギターにおけるコードとシンコペーションと比べれば、その違いは明らかだ。だからサンバがジャズと直接結びついて生まれたボサノヴァと違い、バーデンの音楽からはジャズの匂いはしない。
このアルバムで聴けるように、彼のギターは力強く情熱的で、圧倒的な歯切れの良さとブラジル独特のサウダージ(哀感)のミックスがその身上であり、特にその超高速8ビート・コード奏法は50年以上前のガット・ギター音楽に前人未踏の独創的世界を切り開いた。当然彼もボサノヴァから影響を受け、またボサノヴァに影響を与えた。だからその後のブラジル音楽系のギタリストは、ジョアン・ジルベルトと並び、多かれ少なかれバーデンの影響を受けている(日本では長谷川きよし、佐藤正美など)。
60年代全盛期のバーデン・パウエルは世界中で支持されたが、当時のその神がかったすごさは、1968年にドイツで開催された「Berlin Festival Guitar Workshop」というブルース(バディ・ガイ)やジャズギター(バーニー・ケッセル、ジム・ホール)奏者と共に参加したコンサート・ライブ・アルバムで聴くことができる。ここでも ”イパネマの娘” 、”悲しみのサンバ”、 ”ビリンバウ” の3曲をリズム・セクション付きで演奏しているが、いくらかスタティックな本スタジオ録音盤とは大違いの、迫力とスピード、ドライブ感溢れる圧倒的演奏で会場を熱狂させている。
ボサ・ノバは『くつろいだ』『のんびりした』というイメージがあるのですが、このアルバムはなかなか『ハードでスリリング!』特にTania Maria のファンキーなピアノと歌がすごくいいです。これが『ジャズ・ボッサ』というものなのかどうか詳しい事は知りませんが、好みです♪
ところでこの『音の棲むところ』というシリーズには同時に発売された『サウダーヂ・バイーア』というアルバムもあるらしく、『バイーアをキーワードにセレクトされた選曲』という事でアントニオ・カルロス・ジョビンはもちろん、ドリヴァル・カイミ、カエターノ・ヴェローゾ、そしてガル・コスタも登場します。欲しいな〜!!!
バーデンのギターは今まで聞いてきた中でも三本の指に入ろうかと言うほどだが、彼のCDはしばしば買った後に落胆させられる。しかし、このCDは買って損は無いとお勧めできる。バーデン全盛期の代表曲がほとんど入っているし、彼のギターの神髄が十分に楽しめる。特に「ジャンゴーの歌」、「悲しみのサンバ」、「イガラペ」などはいい。それでも多少スローテンポのぬるい曲(やわらかな美しい曲)が入っているが、それらを無視しても買う価値のあるCD。これ買ったら他はいらねぇーよ。
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