オリジナルは2004年リリース。本書は、1942年生まれのジム・ロジャーズが、2003年5月30日に誕生した愛娘ルールーに捧げている。邦訳は2005年6月、文庫化は2008年10月1日。邦訳スタッフが非常に優れていて実に読みやすい。
この本の中でジム・ロジャーズは株式や債券よりももっともっと基盤の動きになっている『商品(Commodities)』について熱く語る。論調は極めて論理的で出典も明確、世界の動きをモノという視点で需要と供給のバランスの歴史から説明してくれる。その上で多くの大胆な予想を発してくれる。今の結果と照らし合わせてしまうと完璧に読み切っているとは言い難いが、その思考ルーティンは極めて参考になる。
ここまで数字で固めた推理と論破を読むと、『運は常に、備えを怠らなかった人に味方する』彼の言葉も頷ける。投資をするというのはどういうことか、ということを理解できるすばらしい一冊だと思う。
取引内容を詳しく説明した『住商事件』を読んだ後だった事もあり、 新聞記事のスクラップ帳を読み返している感じで迫力に欠けた。 企業の対応や逮捕に至る過程を知るには本書は良くまとまっているが、 巨額の損失を出した銅先物取引については『住商事件』がおすすめ。
住商事件―相場を通して検証するその真実 メタル・トレーダー (講談社文庫)
花王への化粧品部門の売却問題が頓挫して、産業再生機構のもとでの再出発を目指したカネボウの実にセツナイ栄光から解体への物語。時代とのギャップに対応できなかった経営者の無為無策・無能の様を「経営不在」と言うタイトルが語って余りある。 過去30年間の支払利息総額が、カネボウ単独営業利益の合計を上回っており、過去の遺産を食い潰しながら生き永らえてきたこと自体驚きだが、更に、借金漬けの拡大・多角化路線を継続し、実質債務超過状態で粉飾まがいの経営を続けながら墓穴を掘って行く「経営不在」の過程を、さすがに日経、克明に描いている。 虎の子の化粧品部門を売却して再生を図るなど、経営理論のイロハにさえ反するが、不良資産の償却原資さえ底をついた財務体質で、尋常な再生など不可能。12チャンネルのWBSの番組で、あの松下電器の中村社長が、「(中村)改革がなければ、松下は潰れていたかもしれない。」と述懐していたが、それほで、近年の企業を取り巻く経営環境は厳しかったのである。 取締役と会社の関係は委任・・・商法は、プロの経営者による経営を期待している。日経は、カネボウの経営不在の最大の問題点は、経営者の経営合理性の追求の甘さだと指摘しているが、これなど、コーポレート・ガヴァナンス以前の問題であり、経営とは、経営者とは一体何なのかを、もう一度再認識しなければならないのであろうか。
「商品市場」にフォーカスしており、「商品」(例えばスポット取引って何?とかフォワードって何?)についての説明はそれほど期待しない方が良い。逆に「商品市場」の仕組みとか、組織、歴史、それぞれの市場の特徴などについてはまとめられている。また「順ざや」「建玉」と言った業界としては基本的なことだが初心者には不慣れな言葉についても説明がされている。図解などもあるが、キーワードを太文字にするなどはされておらず、あくまでも文庫本チックな書き方がされている。
ジム・ロジャーズは既存のCRB指数などの商品指数はその構成が望ましくないとの判断から、自らロジャーズ国際コモディティ指数を開発しており、1998/7/31に1,000でスタートした同指数は2005/6/30には3,026まで上昇している。指数の大きな上昇から著者の先見の明が証明されており、当本は説得力がある。 コモディティ(商品)は株式・不動産・債券といった投資対象と比較して全くと言っていいほど、世の中では認知されておらず、リスクが著しく高い投資対象、もしくは投機対象として認識されていると思われるが、当本を読めば、その認識は改められよう。 ジム・ロジャーズは各コモディティの需要と供給を十分に分析しており、その分析手法の基本を読者に示している。その分析からはコモディティが投資対象として非常に魅力的なものだと感じさせられ、コモディティに対する好奇心を躍起させられる。個人的には砂糖の分析が特に新鮮であった。砂糖からエタノールを作ることができ、そのことが砂糖の需給、価格を下支えするという点には、なるほどと感心させられた。 読者は単にコモディティに対する知識を得るだけでなく、商品価格が急騰している現在の世の中をいかに捉えればいいか、という点も当本を読んで考えると良いのではないか。著者の中国・インドに対する見方も参考になろう。
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