奇妙な組み合わせのディスクである。ラヴェルの管弦楽曲が2曲。ジャニスを独奏に迎えたリストの「死の舞踏」。得意なリヒャルト・シュトラウス「ドン・ファン」の最初期の録音と、ラフマニノフの「死の島」である。録音も演奏もばらつきがあり、曲集としても一貫性がない。あるいは「あぶれ曲集」といったものかもしれない。……ラヴェルの「スペイン狂詩曲」は復刻しても録音が良くない。「亡き王女のためのパヴァーヌ」は音が良い。しかし色彩感のない実直な演奏である。リストの「死の舞踏」は音が良くオーケストラ部分の迫力はなかなかのものである。リヒャルト・シュトラウスの「ドン・ファン」は、あの記念碑的な「ツァラトゥストラ」と同質の緊張があって襟を正せられるが、惜しむらくは少しマスターテープに経年劣化があるようだ。ラフマニノフの「死の島」は後期シベリウスでも聴いているかのような暗い叙情と厳しい音色で不安にさせられる演奏。音は中庸。ライナーのファンならば、どの演奏を聴いても楽しめようし、それぞれの曲のファンならば、ライナーの解釈を聴いて得るところもあろう。……しかしこんなに怖い演奏ばかり75分も詰め込んで、と思わないこともない。
プロコフィエフ協奏曲第3番が1963年12月28日、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲が1968年1月2日収録。指揮はポール・パレーとルイ・ド・フロマンのORTFフィルハーモニー。収録場所はパリ、フランス国立放送のスタジオ公開演奏会でのライブ映像である。『Mercury Living Presence』のバイロン・ジャニスに圧倒された方は観ずにはいられないだろう。
バイロン・ジャニス(Byron Janis、1928年3月24日 - )は、ホロヴィッツが認めた3人の弟子のひとり(他のふたりはロナルド・トゥリーニとゲイリー・グラフマン)として有名だ。事故で一つの指の感覚を失っているらしいのだが、とても信じられない。ロリン・マゼール指揮でセルゲイ・ラフマニノフの協奏曲を演奏したときに、ウラジミール・ホロヴィッツが聴衆の中にいて、その招きで4年間ホロヴィッツに師事することになった人だ。
米ソの雪解け推進のため、バイロン・ジャニスは1960年からソ連を訪れ、演奏を開始する。そして特にプロコフィエフの協奏曲における圧倒的な表現力に、この曲のNo.1の演奏者はバイロン・ジャニス以外にいない思ってしまう。その運指が観られるだけでもこのDVDは価値が十分にある。完全に暗譜で演奏するその姿は、まるでピアノがパーカッションのようだ。管楽器とピアノの掛け合いのアングルの移り変わりもなかなか興味深い。
余談だが、彼の妻で画家のマリア夫人はあのゲイリー・クーパーの娘である。知る人ぞ知るピアニストとは彼のことだろう。BBC放送がオリジナルのようだがBBCも宝の山だとつくづく思う。
今はなき「ゆらこめ」さんの意見で購入。アメリカ的なタッチ(生きている瞬間の証明だ!)のままです。乾癬関連の関節症の上に引退となったピアニストの「生きている証だ」を聞いて、反論できます。? 私が購入したあとに、ブリリアントレーベルからボックスが発売になっています。直接は聞いておりませんが、音源としては購入可能ですよ。
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