個人的には、日本テレビドラマ史上の最高傑作と断言してはばからない。 舞台は、かの「ギロチン堤防閉め切り」で物議を醸した有明海の長崎県諫早湾、そして諫早市。諫早では古くからの造り酒屋の旧家として名をはせる「楠木家」も、今では没落した小市民。それでも、彼ら親戚たちの手元には、諫早湾内奥の干潟の干拓地、「新開地」10万坪が、先祖から地権を分配相続されていた。 その「新開地」に目をつけたのが、郊外型SCの若き社長としてのし上がってきた矢上(根津甚八)である。分散した登記簿を買いとってレジャーランドを作る計画を目論んでいるが、彼には若き日に楠木家の伸子(手塚理美)との因縁があり、表立って買収に乗り出せなかった。 そこで自身の身代わりに立てたのが、かつての楠木当主が妾腹に産ませた「ふうけもん」と呼ばれ親戚中から蔑まれ、東京でうだつのあがらない生活をしている雲太郎(役所広司)だった。 雲太郎は、矢上から厚遇を受け、こここそ人生の大チャンス、とばかりに大張り切りで買収工作に乗り出すが・・・旧家のプライド・先祖の土地は決して手放さない、と意地を張る本家の老人、自然保護の観点からいまや野鳥の楽園と化している新開地を手放すまいとする伸子や義兄の学(篠田三郎)たち、田畑の二束三文の評価額では売らない、というがめつい連中に四苦八苦、早々に暗礁に乗り上げる。 そこで矢上は、さまざまな汚い手口を雲太郎に吹き込み、所有者の切り崩しを命じる。自身の親戚を裏切り、次々に不幸に追い込むやり口に葛藤・反発しながらも、いいなりに動いていく雲太郎。やがてさまざまな事件の果てに、ついに雲太郎が取った行動は・・・
劇中では諫早出身の文学者、伊東静雄の詩、野呂邦伸の小説が取り上げられ、また、つつじ祭りやちゃんこん踊り、諫早を舞台にした歌謡、有明海の珍生物や漁撈法の映像などもちりばめられ、その中でかつてこの町を襲った大水害の傷跡と、水害と有明海、人々の営みの歴史が語られ、開発と自然保護、文明生活と伝統との相克がテーマとして浮き彫りにされていく。 そして、語り部的な役割として本家の娘、女子大生の美佐(高部とも子)がナレーションをつとめるが、そのナレーションが心にしみる。 「昨日と同じ顔で 昨日と同じ話をしながら 少しずつ私たちは変わっていきました この町の川の流れのように 空を行く雲のように」 「この町で生まれた人は 多くはこの町で育ち亡くなっていきます そんなことを思うせいか毎年お盆になると この町の皆が親戚のように思えてきます みんなが親戚に思えて この町がとてもいい町に思えて みんなの幸せを 祈りたくなります」
最終回のラストシーン、羽田の工事現場で空を見上げながら、今はもう遠い故郷に思いをはせながら、子供時代の桃源郷のようなふるさとの情景を雲太郎はありありと脳裏に浮かべながらとうとうと語り続ける。 「町の中を、本明川というそれはきれいな川が流れていてね。その川の河川敷は蛍の産卵場所で夏の川原では蛍がうずを巻いて光っているんだ。川にはいくつもの橋がかかっていて、夏の夕暮れ、みんなが夕涼みに出てくるんだ」 バブル直前、狂騒がはじまろうとする時代に、今の時代のすべての破局、崩壊を予見していた本作、一日も早いDVD化による復活を望む。
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