74年W杯優勝の後、70年代後半にかけてアディダスの広告にカイザー(皇帝)ことベッケンバウアーの写真と共にあった コピーが現代そして未来のサッカーには「ポジションは存在しない」つまりオールラウンダーを11人揃えてのトータルフットボールが 究極のサッカーの進んでいく方向性であると宣言していたのである。当時はベッケンバウアーらの凄さと相まって (唯一のサッカーTVプログラムだった三菱ダイヤモンドサッカーもブンデスリーガをよく紹介していたし)今後、世界のサッカーは 西ドイツヤオランダのようなスーパースターを中心に全員攻撃全員守備を繰り広げるスペクタルな競技になっていくのだと 漠然と夢想していたのを覚えている。まだ日本がプロ化するとは思えず、W杯など夢のまた夢だった時代だ。 そんな少年時代の漠としたイメージを理論的に明快な語り口(と言うにはやや流れの悪い部分もあるが)で 欧州の戦術の変遷という大きな流れの中で文章化してみせたところにこの作品の価値があると思う。 前作は説明が足りずやや我田引水な印象もあったが、本作は前作で語られず理解されなかった溝を埋め サッカーを戦術という側面から掘り下げて見る醍醐味を広く知らしめ得る内容になったのではなかろうか。 ゾーンとマンツーマン、ハードワークとパスワーク等の永遠の課題、ポゼッション、プレッシングのバランス、etc、個人技で勝る ブラジル、南米陣営に伍する為に練り上げられてきた戦術が最終的には哲学の域に収斂するとの指摘は サッカー/フットボールという単純故に無限のバリエーションを持つ競技の裾野の広さと奥深さを考える上で正鵠を射ている と思う。無論、南米の視点から語られればまた違うフェイズが見えてくるだろうし、著者の視座が全てを 俯瞰しているとはいえないかも知れない。が、「コロンブスの卵」よろしく、戦術という切り口で魅せる サッカー観戦の為のガイドブックという点では出色の出来ではないかとごく個人的には評価している。 岡田ジャパンがGKとDFの間の僅かなスペース、特にゴールニアサイドに走り込んでの攻撃に活路を見出そうとしている ことも日本の特性と世界の大きな流れの中ではむべなるかなと感じた次第。
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