とにかく、主人公のキャラクタがいいです。
気はやさしくて力持ち、というのは、金太郎の人となりを表す言葉ですが、この小説の主人公も、まさにその通り。
そして、そのスー
パーマンぶりが嫌味になっていないのは、主人公の朴とつさ、ひたむきさのせいでしょう。
自殺をはかる正太という小僧がいて、主人公が説得するシーンがあります。
そこから、少し引用させてください。
「(前略)頭の良し悪しなぞたった一つの値打ちにすぎね。ほかにも人の値打ちはいっぱいある。素直もそうだ。正直もそうだ。親孝行もそうだ。やさしい心もなさけ深い心も、みんな人の値打ちだ。(以下略)」(162ページ)
「(前略)足りねところがあってこその人だ。その足りねところは、それを授かっているほかの人に埋めてもらえばよい。逆も同じだ。己に授かっているものをもって、それが欠けている人の穴を埋めてやればよい。(以下略)」(162ページ)
へたをすると説教くさくて読めないところですが、前述の通り、主人公の人柄のせいか、すんなり腹に落ち、ほろりと涙してしまうのです。
約束した女性を待ちながら、ひょうひょうと江戸を生き抜いていく主人公の、これからが楽しみな作品です。