1960年代に生まれた同世代以降で、邦画が好きと言う人にはあまり会わない。その理由としてよく耳にするのは、「邦画は暗いイメージがある」という答えだ。しかし、実際には決してそのような鬱屈とした作品ばかりでなく、
心が洗われるような美しい物語も数多く存在する。「幸福の黄色いハンカチ」は、まさにそうした、見る者の心に青空を届ける、日本映画の傑作といえよう。
「庶民」という言葉が、かつてこの国には存在し、「庶民的」と呼ばれる人の暮らしがあった。この映画で描かれる世界は、まさにそうした庶民の飾りのない心の触れ合いを描いた物語である。さて、この「庶民」という言葉を辞書で調べると、「社会的特権をもたないもろもろの人」とある。ここでいう「社会的特権」というのは具体的には何を指すのか分らないが、少なくともそこには「庶民ではない特別な階級」という前提があるようで、この国がいわゆる「市民」によって建てられた「民主主義」の国ではなく、「特権階級」によって成り立ってきた歴史を示唆する逆説的な言葉のようにも思えてくる。ここでそれが良いとか悪いとかいうつもりはないが、ただ、この作品を見たときに、そうした「庶民」と呼ばれる人々の暮らしの中にこそ、日本人が培って来た大切な何かが宿っているように思えてならないのだ。
この映画を、今もう一度見ると、そこに描かれる「幸福」というものが、とてもシンプルなものに思える。社会的名声や、地位や、物や、知識ではなく、
「幸福」というのはもっと素朴な、打算のないありのままの人の心の触れ合いの中にちあったのではないだろうか。日本人はいつか、誰からか与えられた物差しでしか「幸福」や「価値」を見出せなくなってしまった。そのような物差しでしか自分の存在を測れなくなり、いつかありのままの「自分自身」すら見失ったのではないか。そして、そのような物差しで作った社会を再生産し続けた結果、行き場のない歪んだ事件を現在に引き起こす結果となったように思えるのだ。
ところで、この映画のワンシーンで、お腹を下した
武田鉄矢が
牧場をがに股で駆けていく後姿を笑う高倉健の横顔が映るが、どうも本気で笑っているように見えてならない。演技だとしても、このような笑顔を見せる高倉健は
スクリーンの中では珍しかった。この作品は、それまでの「網走番外地」シリーズのイメージから脱却し、近年の「駅員」「ホタル」などの名演に通じる、新しい俳優高倉健の可能性を広げたターニングポイントとなる作品としても知られている。
さらに、
桃井かおり、賠償千恵子、渥美清といったこれ以外はありえないとも思える絶妙のキャスティングなど、まさに日本映画の結晶といえるこの素晴らしい作品を、まだ見ぬ人にはぜひ伝えたいと思う。
この春風のように爽やかな物語には、不思議と邦画独特の湿り気がない。
ラストシーンで空にそよぐ「幸福の黄色いハンカチ」がいつの日か自分の人生にも訪れることを、この映画を見た人はきっと願うだろう。しかし、このようなすばらしい日本映画が、何故その後生まれないのか。それは「幸福」そのものを、この国に住む人々が見失ってしまったからではないだろうか。
夫婦で寄り添ってみてもいい映画。イルカのなごり雪の頃から沿道に黄色いタンポポがポツリポツリと現れてきます。それから、町の所々に取りつけられた同じ色の安全旗にも気づき始めます。雑貨屋のおばあちゃんと鉄也が交わす上着の赤と白の色にクスリと笑ってから赤いファミリアのドラマに手に汗握ってハラハラさせられました。そして、映画のENDで風の中の黄色いハンカチを見ながら、春が来て季節がきれいになったら、黄色の愛車で釧路から北海道を走ってみたくなりました。
このディスクは、2010年に山田監督の監修のもとで、全く新しくディジタルリマスターされたものである。
フィルム自体が古いためか、DVDと比較しても、驚くほどは解像度が改善されているわけではない。
しかし、DVDと比較すると、解像度は確実に向上しており、カラーバランスと音声も、実に丁寧にリマスターされていることがわかる。
特典映像も新たに追加されており、2010リマスターでの劇場公開時の山田監督と
武田鉄矢氏のインタビューなどを見ることができ、この映画の歴史を感じさせられた。
とにかく、気持ちよく鑑賞でき、感動がよみがえるブルーレイとなっており、是非とも、ライブラリに追加することをお勧めしたい。
最後に、松竹には「男はつらいよ」シリーズのブルーレイ発売も期待したい。
日本映画ファンの皆さん、多少の不満はあるでしょうが、日本映画界をつぶさないためにも、日本映画のブルーレイディスクを買いましょう。