2002年3月にメータの指揮により行われたイスラエルフィルのコンサートを収録したライブDVDです。ピアノは内田光子。収録曲は
ベートーベン作曲ピアノ協奏第4番
シューベルト作曲「ロサムンデ」前奏曲
バッハ作曲オーボエと
バイオリンのための協奏曲op.9
ストラビンスキー作曲「プルチネッラ」(1922年版)
音声はドルビーデジタル2chと5.1chの2種類選べます。画質は鮮明ですが、ワイド
スクリーンではありません。
内田光子の演奏が観られる数少ないDVDであることに加え、画質/音質共に良好なので5つ星と評価したいところですが、国内版はまだまだ高価なので4つ星です。
Region Allの輸入版
Zubin Mehta Meets Mitsuko Uchida (Ws Dol) [DVD] [Import]の方がさらにお買い得です。
内田光子のシューマン最新録音盤は、「森の情景」「ピアノ・ソナタ第2番ト短調」「暁の歌」3組曲のカッ
プリング。
彼女のシューマン演奏は初めて聴いたが、本盤の演奏を言葉にしようとした際ふと「思考するシューマン」という表
現が浮かんだ。元々彼女は徹底した楽曲解析の基に演奏を構築する知性派だが、その姿勢は本盤の演奏でも変
わらず、各フレーズ・音色一つに迄含みをもたせ聴き手に問いかけて来る。
それは「森の情景」第1曲「入口」冒頭2小節だけ切り取っても分かる。2小節目長調から短調へ響きが変化する瞬間
彼女はテンポを落とし音色を変化させる。ここで彼女は何かを聴き手に示唆している。素人の私が彼女の意図を全
て察することなど不可能だが、少なくとも聴き手の意識は否応無くそこへ向かい、楽曲の思わぬ処に美しさを発見
するきっかけになる。それだけでも十分に演奏を堪能出来ると思う。
森の傍らでひっそり咲く花を愛でるように、彼女は「森の情景」9つの小品に潜む美しさに、その丁寧な表現でフレー
ズの隅々まで光をあてる。終曲「別れ」を聴き終える頃には、後ろ髪を引かれる想いでこの魅惑の森を後にするのだ。
シューマンがライン河に身を投げる僅か数ヶ月前に作曲された「暁の歌」は初聴だが深い感銘を受けた。特に第1曲
ニ長調が素晴らしい。晩年になると多くの作曲家は寡黙になり音数を減らしていくがこれも例外ではない。まるで賛
美歌の様に深.遠な響きの和音が淡々と刻まれ、その神聖とも言える美しさは暁の刻、静けさの中うっすら赤く染ま
る朝焼け空を拝んでいる様で、何かとてつもなく大きなものに吸い込まれ一体となる感動を覚える。
一方他二つ以上に賛否が分かれそうなのが「ピアノ・ソナタ第2番」の演奏。元々私の中でこの曲の「基準」となって
いたのが有名なマルタ・アルゲリッチ盤だった。本能のまま4楽章一気に弾ききるアルゲリッチの演奏と、本盤の演
奏は対極とも言えるスタンスにあり、その差異は第1楽章をとると分かり易い。
16分音符が絶えず転がる第1楽章、衝動に突き動かされるまま猛スピードで突進するアルゲリッチに対し、内田は
決して猛進せず頻繁に速さにブレーキをかける。それはインテンポでの演奏の困難さ故ではなく、各所のフレーズを
明示する為だ。アルゲリッチの演奏スピードに慣れていた私は当初物足りない感覚を覚えたが、繰り返し演奏に触
れるうち、アルゲリッチの演奏では気づかなかった細部のフレーズ間の絡みと対比の面白さに気づくことになった。
ただソナタの表現に何を求めるかで受け手により印象が変わる演奏だとは思う。
演奏全体を覆う気品と静謐さが良い。本盤は今まで見落としていたシューマン楽曲の美しさに多々気づかせてくれた。