有名な小品を寄せ集めたピアノ・アルバムがあるが、これはそれと似て非なるもの。
もっと個人的で、親密で、「濃密な音楽」。
「音を沈黙で測る」ピアニストならではの選曲と演奏。秋から冬にかけての必聴盤。
10月の終わりの晴れた午前中に、「ヴェニスのゴンドラ(メンデルスゾーン「無言歌」)」が聞こえてくると、
すべての作業の手を止めて聴き入ってしまう。
自選された全18曲のそれぞれに、奏者自身のコメントが付いている。
1曲目:グリーグ「
アリエッタ」
「わずか23小節のさりげない小品。30余年にもわたって気の向くままに書きつづった、
グリーグの音楽随想集ともいえる<抒情小曲集>の第1曲。
美しいメロディが、繰り返し静かに歌われるごくシンプルな曲だが、
弾く度に初めて触れたような新鮮な感覚にさせられる」と書いてある。
この1曲目から、彼女が作り出す音楽世界に引き込まれる。
3曲目、メンデルスゾーン無言歌集「ヴェニスのゴンドラ」。”行間を読む”という言葉があるが、
この曲を弾く彼女のピアノを聴いていると、音と音の間に広がる沈黙に、おもわず耳を澄ましてしまう。
4曲目、軽快に指がまわるメンデルスゾーン「紡ぎ歌」の後に響く、シューマン「子供の情景」。美音と情感。
続いて奏でられるワーグナーの「夕星の歌」。リストが編曲したタンホイザーの抒情世界。
この曲を聴くだけでも、このアルバムを入手する価値があると、書きたくなるが、
そんな演奏が、まだ何曲も収録されている。
1曲1曲が充実しているので、BGMというよりは、じっくり耳を澄ます音楽体験になる。
ある時は、彼女が独りピアノを弾く部屋に立ち、静かにそれを聴いているような気分になり、
ある時は、ぐっとピアノに近づいて華麗で迫力のある音の流れに身をひたす。
余談だが、
ジャケットが「のだめ」23巻カバーに似ているのは偶然か、ユーモアか。
CD本体はきれいな薄桃色。
バイオリンの音色が艶やかで、そして力強いです。
バイオリンの歌わせ方に奏者の力量を感じます。
特に収録曲最後の「チャルダッシュ」はいろいろなバイオリニストが弾いていますが、これが最も気に入っています。浅田真央ちゃんのスケーティングも思い出しますよ。