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織田信長”を題材にすれば、そこそこの読者と売り上げがついてくる程好まれる故、粗悪な作品も多いのだが、辻 邦生氏の描いたこの書物は、数ある信長ものの中で傑出した表現で、読んでいるというより、この場で”観ている”感を覚える。
一度読み終えると読み返さない私だが、この作品においてはそれをやってしまった。
創作とはいえ、この本を読んでいる時に私が絶叫していたのは、「こういう男性に出会いたい!」でした。他の方のレビューを台無しにしてしまうかもしれませんが、この本の中の恋は、道なってもみちならなくても美しい。子育てに追われる、枯れてきた身としては、この本の中に描かれる恋に恋をしてしまいました。歴史モノは苦手で、しかもこのぶあつい本を手にした時はどうして血迷ったか?!と思いましたが、しっかり読みきってしまいました。そして今も一番大切な本の中のひとつとしてあります。また、人間関係に疲れている人のココロに響くような言葉もたくさんあり、本当に傑作だと思います。
30年ぶりに、文庫本ではない、厚い原版を取り出して読み返しました。キリスト教化する
ローマ帝国に
ギリシャ・
ローマの神々を呼び戻そうとして戦火に倒れた皇帝の話しです。大部を一気に読ませるストーリー展開、史実への忠実さ、そこに流れる人間への本質的な信頼と宗教への疑念など、未だに色あせていません。その後の辻文学はむやみに厚く、文体も過度に装飾的で好き嫌いがハッキリしますが、この本は押しもおされもしない辻歴史文学の最高峰と思います。このようなヨーロッパ精神を形成した初期留学時の
パリ日記も素敵です。
毎年レコ芸の現代曲受賞作品をチェックしているが、昨年度は日本人の細川氏の作品が受賞。確かにこれといった目新しい作品はここ数年上がっていなかったのだが。武満トーンが感じられるハープ協奏曲「回帰」、随所威嚇・崩壊を示し鳥肌が立った。「森の奥へ」では床をたたく足音が効果的に世界との関わりを示しているし、「相聞歌」では長唄を現代音楽
タッチで表現している。最後の「想起」についてはマリンバという楽器から「うねり」を引き出したもの。アコースティックからの
環境音楽へのアプローチといったところか。全体にリラックスして傾聴できるのがいい。