新・人間交差点 [DVD]
本作は、矢島正雄・弘兼憲史の『人間交差点』の新ストーリーとして、内海隆一郎の小説『翼ある船は』を織り交ぜながら再構成されたNHKの人間ドラマ。収録されている各回のタイトルは以下の通りである。
第1回 引退記者のファイル
第2回 赤ひげの歳月
最終回 翼ある船は
物語は、かつて新聞記者であった孤独な老人の寺嶋由次とその姉の孫娘で大阪で新聞記者をする富岡マリエとの出会いから始まる。当初、そりの合わない二人だが、様々な人々と向き合う中で現在と過去を通して多くの「感動」を紡いでいく。
しかし、最終回のカーチェイスだけは全くもっていただけない。いくら「岸壁の母」へと至る伏線とはいえ、せっかくの物語が少し浅薄なものに思えてしまった。また俳優に関しても、仲代達矢はともかく、佐藤江梨子と黒田有は、必ずしもベストの人選ではないような気がする。いわゆる「社会派」の重厚な素晴らしいドラマだっただけに、もう少し完成度を高めてほしかった、というのが私の率直な感想である。
深夜食堂 1 (ビッグコミックススペシャル)
深夜にしか営業しない、繁華街の一隅にある食堂にて
そこに集まる一癖も二癖もある客たちが
これまた訳アリな店の主人と織り成す現代の人情物。
店には豚汁定食以外の固定メニューは無く、
「あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんなら作るよ」という方針で
必要以上に人の事情に立ち入らないという意味では一見ドライに、
しかし仄かに暖かく営業している。
ストーリーは一貫して店の中でしか展開しない。
しかし「食にまつわる想い出」を持たない人間がこの世に居る訳は無く、
個々人の過去が様々なメニューとともに立ち現れ、
赤の他人にも本音をポロリと出し易い深夜という時間設定も相まって
郷愁に満ちた豊穣な舌の上の小世界が毎話展開する。
本巻はその第一巻。赤いウインナーにきのうのカレー、
置き去りにされてきた真の昭和がここにはある。
都会の孤独の中で、魂が帰るのはやはり子供の頃の食卓の追憶。
それが判る年齢になってからこの本に出合えた幸せが感じられた。
売れない演歌歌手と猫まんまのエピソードは、地味でありきたりではあるけども
語られない背後の事情を思うとほろりとさせられる。