死国 [DVD]
よく「リング」シリーズと並んで取り沙汰されるだけあるので、それなりの覚悟を持って観ていたのだが、理不尽さの残らぬ(道理ある)展開でとても満足いく、しっかりしたストーリーだと思った。長崎監督の語るように四国のロケが臨場感を高め、どこか寒気のする雰囲気を帯びた作品ではあるが、霊の再生に不自然さはなく(本物のお遍路さんから見ればどうかは解らないが…)締めくくりも自然であったし、何より栗山千明演じる莎代里の心情が我々にも充分理解できる点が、単なる絶叫ホラーと違う、しっとりとした日本的な作風の所以だと思う。
午前零時―P.S.昨日の私へ (新潮文庫)
およそCDアルバムでも、そうは秀作ばかりというわけにもいかないだろう。
本作集では、その「差」があまりに大きいところが星★★★
坂東眞砂子【冷たい手】では、それこそ手に職を持つ娘が東京から故郷に還り、
母と時間を共にすることによる老いへの恐怖、、、、、
馳 星周【午前零時のサラ】では年齢差男女が犬を介して夜を行き交う物語。
この人のことは知らないが仁木英之という人の【ラッキーストリング】。
異国のアジアで、不動の歴史と時間に溶かされ午前零時どころか永遠に帰国できない時空に堕ちる青年の末路。
この3作を知るだけでも、
本書を手放さない価値は、ある。
死国 (角川文庫)
ずいぶん前に狗神を読んでからこちらを読んだ。
狗神ほどのインパクトは無いが、とにかく
「四国」という土地柄に心惹かれた。
東京住みの自分が全く知らなかった世界観。
民俗学にハマってしまった。四国に行ってみたいと
思わせる一冊。作者の坂東眞砂子氏の故郷への執着を
土民族独特の方言でひしひしと伝えてくれる。
自分が死ぬまでに一度は四国に行き、お遍路さんを
したくなった。あえて、あらすじには触れまい。
ちなみに「狗神」も「死国」も映画の方は、
さっぱり面白くなかった。
朱鳥の陵
わたしはこのところ古代史に関心があり、あまり小説というものを読むことはない。坂東真砂子氏のものは「山妣」「曼荼羅道」が印象的で、それ以外は掌編を読んだ程度だ。しかし、この「朱鳥の陵」には一読して、なおも興奮醒めやらず、こうしてレビューを書いている。面白い! そして小説としての価値に止まらない、瞠目すべき書である。
古代史の本、とくにアカデミックな学者のものは、概ね鳥瞰的・客観的な視点からのものが多い。もちろん、それは必要な視点だが、こぼれ落ちているものもまた、多いはずだ。小説のかたちをとると、当事者の視点が中心となるため、思いもよらぬ見地が炙りだされるる可能性がある。
古代史を舞台にした小説としては黒岩重吾氏のものが先駆的だが、坂東氏の「朱鳥の陵」には夢を読み解く職能者を登場させるという果敢な試みにおいて出色だ。心理描写、人間描写の卓越さのみならず、古代において人々を支配していた想念――現代でも人々の心の底に眠っていると思われる?――を縦横無尽に駆使して圧巻。坂東氏の力量には心底、脱帽した。それでいて、歴史的事実を細部にわたりきちんと踏まえている。普段、小説を読まない歴史愛好家にもお勧めしたい。
ただし、著者に要望したいことがあります。本作の着想に大きな、それも出発点というべき?インスピレーションを与えたものとして民間の民俗学者・吉野裕子「持統天皇」があったと推察される。吉野氏の著作は、巻末に参考文献に見出されはするものの、他の文献のなかに埋もれるようにあるにすぎない。もちろん、これを作品に仕立て上げた著者には感服するが、一方、故・吉野氏にたいし、もうすこし配慮があってもよかったと思われる。参考文献のなかでも特記するとか。あるいは、作品の形態が小説だと、この程度で済ますのが常識なのだろうか…。それでは吉野氏が可哀そうだ。
注文ついでに編集者へ:読み進めているうちに、なんか妙な感じだと気付き、よく見るとやや右肩上がりの斜字体になっていました。たしかに毛筆の場合、やや右肩上がりなるので、それに倣ったのかもしれません。工夫したのでしょうが、個人的な印象ながら、読みにくいと感じました。やはり活字は活字、独自の文化なのではないでしょうか。香気あふれる文体を損なっているように思いました。
【追記】古代史ファンでも古代天皇をめぐる人間関係、特に婚姻関係はこんがらかります。わたしは「天智と持統」(遠山美都男、講談社現代新書)を傍らにおいて本書を読みました。ご参考まで。