屋根裏の二処女 (吉屋信子乙女小説コレクション)
大正時代の小説。復刻版。
乙女チックですが、詩的で、文章、物語が楽しめます。
やや自虐的な章子が、同じ寄宿舎の屋根裏部屋の隣人、美人でクールな秋津環に想いを寄せる物語。
なお、監修は嶽本野ばらです。註も面白いです。
<本文から。以下、長くなりますが、こういった文章も美しく思います>
(屋根裏)
この一つの語彙のうちに、章子は溢れるような豊富な、新鮮な、そして朦朧とした幽暗と、そして(未知)に彩られた奇怪と驚異と、幼稚な臆病な好奇心と――の張り切れるほどいっぱいに盛り上げられて充満しているのをその一刹那から感じた。その観念の前に(屋根裏)の語音は、非常に魅力ある巧みな美しい響きを伝えるものとなった、そして美と憧憬とを含んで包む象徴的の韻を踏ませてゆくのものとなった。
たとえば、(薔薇の花)――(珊瑚樹)――(初恋)――(・・・・・・)・・・・・
ああ、若者達の多くの幻想を寄せるに、ふさわしいこのあまたの数々の抒情詩集の中から引き抜かれた言句にも優って更に深くつよく若い心をき乱す如き心憎くも幽遠な響と感じを発するものと――章子にはなったので。(本文から)
是非、大正時代の日本の良さ?を感じましょう。
名短篇、さらにあり (ちくま文庫)
戦前の作家の短編集。
学校の授業で、名前だけは知っていた人たちの作品。
読んでびっくり。
改行が殆んど無く、文章が長めで読みづらい。
でも、味のある作品が多かった。
編者二人の対談を読んだ方が、魅力が増す。
時代が変わっても、人生の哀しさ、辛さは変わらない。
奇抜な展開の小説は、人の記憶に残りやすい
だが こうした地味な短編も、いい。
徳川の夫人たち 上 朝日文庫 よ 1-1
吉屋信子の独特の美意識で綴られた名文にうっとりしながら、読みました。公家六条家の姫君―伊勢慶光院の尼君―将軍家の側室―大奥総取締役の大上臈と数奇な運命をたどった女性の凛とした信念みたいなものが漂っていました。
1967年にテレビ朝日系でドラマ化されましたね。お万の方(佐久間良子)・春日局(杉村春子)・徳川家光(江原真二郎)・藤尾(岩崎加根子)・お楽の方(宮園純子)・お夏の方(小川知子)・お玉の方(緑魔子)・鷹司孝子(稲野和子)などの配役でした。
同じころ舞台化もされました。こちらはお万の方(司葉子)・春日局(山田五十鈴)・徳川家光(市川染五郎・現松本幸四郎)・藤尾(乙羽信子)・お楽の方(星由里子)などでした。その後のテレビ・映画・舞台の大奥ブームのきっかけとなった作品でした。佐久間良子もその後同じ系列で「皇女和の宮」「お吟さま」と好演したのをよく覚えています。
花物語 下 (河出文庫 よ 9-2)
花物語の下巻は、後半の19編を収録します。花物語も後半に入ると、ストーリーも深化して時に少女小説の枠を越えたような作品が出てきます。形式も著者に宛てた投書の形(アカシヤ)、樋口一葉風に文体をまねたもの(日陰の花)といった工夫も見られます。特に「ヘリオトープ」は散文詩のような美文調でまとめた掌編です。末尾に大正12年10月14日と日付があります。大正12年9月1日の関東大震災から1ヶ月半後の作品で震災の影響が垣間見られます。
下巻のエピソードでは、さらに女同士の恋愛感情に踏み込んだ作品が出てきます。「アカシヤ」「日陰の花」「黄薔薇」「スイートピー」など。就中、「黄薔薇」は、古代ギリシアの女流詩人に言及して、まさにその世界を描いています。どのエピソードも悲しい結末に終わっており、やや苦い後味を残しますが、いずれも少女小説を超えてその先を行く力作です。
花物語をはじめ当時の少女雑誌というと、中原淳一の挿絵と決まっていました。あとがきによれば、河出文庫版の表紙絵は、中原淳一のイメージに囚われずに読んでほしいという意図からこのような表紙絵を採用したとのことです。これは良い試みと思いました。