ヨハン・セバスチャン・バッハの生きていた、 当時のフォルテピアノによる演奏です。
このCDを聴くと、果たして現代の頑丈なグランド・ピアノが 前時代の貧弱なフォルテ・ピアノの欠点を改良して発展してきた という通説が、ただしいものだったのか?と思わず考えさせられて しまいます。
出てくる音は「予想通り」でもあり、「予想以上」でもあり、大変興味深い ものです。 まだチェンバロみたいな、ちょっと金属的な音がしますが、聴く前に想像していたよりは、 ピアノ的な表現が出来、案外力強い、ドラマティックな表情も出せます。 チェンバロやオルガンではレバーや、多重鍵盤などによる『切り替え』でしか 多彩な表現が出来なかったことを考えると、ちょっとした指先のタッチの 仕方で強弱や表情の変化を付けられる新しいピアノがいかに画期的なもの だったか、なのに大バッハはこの後すぐに亡くなってしまい、ほとんど この楽器による音楽を残せなかったことなど、歴史の皮肉を感じさせられますね。 そんな、歴史的価値を抜きにしても、音色が非常に典雅な感じで BGM的にも、リラックスできる良いCDだと思います。
参考までに指先で強弱の付けられるもう一つの鍵盤楽器、 クラヴィコードによる名演CDも紹介しておきます。 レオンハルト/クラヴィコード・リサイタル
日本におけるチェンバロ製作の第一人者久保田彰によるチェンバロ解説のDVDBOOK。チェンバロの構造やメンテナンスなど、詳細は『図解チェンバロメンテナンス―チェンバリストと技術者のために』に詳しい。本書はカラー写真をふんだんに使って、目でも楽しめる本に仕上がっている。DVDではチェンバリストの曽根麻矢子、水永牧子が様々なチェンバロやヴァージナルを演奏して聞かせてくれる。しかし何と言っても圧巻は武久源造による即興演奏。前奏曲とフーガと思われる。フーガに入り、多声を緻密な構造で作り上げ、そして解決に導いていく腕の冴えは驚嘆的だ。自身としても会心の出来だったのであろう。演奏しながら笑みがこぼれている。武久という音楽家がこれほどの実力を持った人であったのか!と初めて知らされた。古楽はもはや珍しくも特別のものでもなくなったが、まだチェンバロに馴染みがなく、聞いてみたいと思っている人にお勧めしたい、と同時に、今までチェンバロ演奏を見たことのなかった愛好家にも是非お勧めしたい。
武久のチャンバロをゆっくり楽しむには好都合の一枚。
武久源造という方は 1歳で失明されたという。目が見えないハンディというのも想像を絶するが 彼が現代の日本を代表するチェンバリストであることも確かだと思う。初めに彼の演奏を聴いたのは 「ゴールドベルグ変奏曲」だったが その情感たっぷりとしたバッハには感銘を受けた。
その後も 彼の演奏を聴くようにしてきており この一枚にたどり着いたところである。
マイナーな曲を丹念に拾ってきている姿勢も嬉しい。バロックを聴くにしても バッハの有名な作品ばかりでも 詰まらないものだ。バロックの拾い物を見つけるにしても このアルバムは嬉しい限りだ。
1996年10月に山梨県北杜市で録音された、武久源造による、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)の小品集のCDです。収録曲は… ●インヴェンションとシンフォニア、BWV.772〜801(全30曲) ●小前奏曲、BWV.924〜932・934・936・937・939〜942(全16曲) です。総収録時間は74分19秒です。 曲はBWV順ではなく調性ごとに並べられていて、ハ長調(4曲)→ハ短調(3曲)→へ長調(4曲)→…などと続いていきます。これらの曲を武久は、小型オルガン、チェンバロ、クラヴィコードを使い分けて弾いています。その音色の違いを楽しむのも一興でしょう。 短い曲では40秒、長い曲でも4分足らずなので飽きません。バッハのミクロコスモス(小宇宙)を堪能できる一枚です。
一曲目出だしから鳥肌立ちました。バロック時代を追従した器楽編成だが決してカビ臭く無くタイトル通り”未来形”の前に突き進むサウンドはクオリティー高く、途中で曲をスキップすることなく一気に聴けてしまいます。ホールでの録音らしく各楽器の奥側で聞こえるかすかな残響時間も絶妙でライブ感があり、且つ音の粒立ちを邪魔することなく演奏者と技術スタッフとの一体感が見える気がします。 また、単にバロック音楽を解っていらっしゃる武久源造氏が解っているメンバーを集めただけに留まらず、ヴァイオリン、チェロ、チェンバロなどの合間を繋ぐバロック・ヴィオラを演奏する大学4年生(当時)で若手の田中千尋を起用するなど、演奏者にも未来を見据えたオーケストラ構成には感心した。若い人達にも十分聴き応えあるアルバムになっていると考えます。
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