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寺内大吉 化城の昭和史―二・二六事件への道と日蓮主義者〈上〉

5.15や2.26を扱った本は多々あるが、本書は当時の軍部ならびに民族派の精神的支柱ともなったとされる法華経から見た独特の捉え方をしている。なぜ法華経なのか。この視点には、明治以降の、あるいはそれ以前も含めて仏教、とくに日蓮の果たしてきた役割についてもうまく触れられていて、たぶん、ここに日本の精神性の原点があると思われる。ただ、なぜ法華経に多くの青年将校や北一輝、西田税などが傾注したのかは、残念ながら不明だった。これは、私に仏教心がないからかもしれず、まだまだ勉強の余地はあるようだ。福田和也の石原莞爾の本など、もろもろの昭和前史の本があるが、本書には足元にも及ばないぐらい、内容は深い。本書は絶版になっていて、マーケットプレースで求めたが、いい本が死んでいくのは残念である。 化城の昭和史―二・二六事件への道と日蓮主義者〈上〉 関連情報

寺内大吉 化城の昭和史―二・二六事件への道と日蓮主義者〈上〉 (中公文庫)

寺内大吉といえば、キックボクシングや競輪の解説者として有名で、直木賞作家でありながら作家というイメージに乏しく、坊主でもあったが坊主らしくないのでさほど偉い坊さんとは思っていなかったが、実際は浄土宗増上寺の法主にまで登りつめた人だった。著者は大学生のときに、冒頭で描かれている、満洲建国会議場に「南無妙法蓮華経」の垂れ幕がぶら下げられた写真を実際に見たことを下巻のあとがきで述べている。翌年の上海事変の発端が日蓮托鉢僧の虐殺であることも何かの暗合なのか。やがて5・15から2・26事件へ至る日本ファシズムの形成過程で随所に顔を覗かせる日蓮主義者たちの存在を知るに及び、それは著者の中で重大な関心事になっていった。その日蓮主義者としてこの上巻では、石原莞爾、血盟団の井上日召、北一輝、西田税、田中智学、5・15の海軍将校、神兵隊事件の前田虎雄、「新興仏教青年同盟」を結成した妹尾義郎、最後に「死のう団事件」の江川忠治を採り上げている(宮沢賢治も顔を出す)。また。日蓮主義者ではないが、相沢事件の相沢三郎中佐や大川周明にもスポットを当てている。建造物も三保松原の「最勝閣」や京都「洛東アパート」の名がさりげなく載っていて、小憎らしい演出をしている。 化城の昭和史―二・二六事件への道と日蓮主義者〈上〉 (中公文庫) 関連情報




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