新聞連載小説です。ここでは早々と希さんが登場しますが、同じ陸上部の奈津子さんが出てきたのも嬉しかったですね。被災当時の仙河海市の状況が詳しく描かれていますが、観光で一度しか訪れたことのない私にとっては位置関係が良く判りませんでしたので、地図を描いていただくとか地図の栞を入れて頂くとかの工夫をして欲しかったと思います。二部では、防潮堤に関する問題提起をされていますが、被災地の住民の方々にとっては難しい問題だと思います。県側がもっと住民の意見を汲み入れる姿勢に立っていただきたいものです。三部では、「微睡みの海」に出てきた美術教師が登場しましたが、嬉しかったですね。ラストシーンは、笑子さんが過去を断ち切るために子供の名前を変えたんでしょうね?イメージの膨らむラストでした。 潮の音、空の青、海の詩 関連情報
第5話まで読み終えた感想は、すぐれたクリエイターに映像化してほしいというものだった。第6話と第7話(最終話)では、東日本大震災とその後が描かれる。作者は当初、大震災を描くことになろうとは思わなかったはずだ。最終話の最後に、「大切なものを失った後、何を幸せと感じるのか」と問いかけられたように思ったが、そのような問いかけを、当初、作者は予想していなかったのではないか。被災者は、震災の前後で同じ意識状態を保つことが難しい。意識がねじまげられてしまうのだ。この小説も作者が当初予定したものとは違うものにねじ曲げられてしまったのかもしれない。その意味で、この小説は被災者の意識のありようを正直に反映している。いいとか悪いとかではなく、このようにしかならなかったのだ。熊谷達也という小説家に初めて出会ったが、この小説で出会ったことに感謝したい。 調律師 (文春文庫) 関連情報
かねてより、直木賞は小説ではなく小説家に授けるためにある賞だと言われていたと思う。実際に過去の直木賞受賞作を読んでも、ピンとこないことが間々あった。だけど、「邂逅の森」は違う。小説そのものが抜群に良い。壮大なスケール感と叙情性豊かな描写力で描かれたマタギの物語は、読む者の心にじんわりとした感動を与えてくれる。読後の深い余韻は、ここ何年か読んだ小説の中でも一番。直木賞を獲らなければ書店の片隅に埋もれ忘れられてしまったかもしれないこの本に巡り合うことが出来てとても幸運だったと思う。 邂逅の森 (文春文庫) 関連情報