ジャン=リュック・ゴダールが心酔し、イングマール・ベルイマンがこよなくあこがれるというデンマーク屈指の巨匠カール・テオドール・ドライヤー監督によるサイレント時代の大作がこれです。とはいうものの、これはついサイレント映画であることを忘れてしまうようなみずみずしい斬新さにあふれたフィルムです。
イギリスと
フランスの間で戦われた100年戦争のなか祖国
フランスのために立ち上がった少女ジャンヌ・ダルク。この救国の英雄が敵であるイギリス軍に捕らえられて異端裁判にかけられ、刑死するまでの短い時間を主に審問官とジャンヌ本人とのやりとりを主体に構成された一種の法廷ドラマといったつくり。しかしながらクローズアップとローアングルからの撮影を駆使した面白みのある画面構成と心を刺激するバイタリティに満ちた演出が生み出す迫力に圧倒されます。特に老獪な審問官と純粋なジャンヌの執拗なまでの顔面の接写が俳優たちの表情豊かな演技とあいまって緻密な人間造形のディテールを提供し絶大な効果を上げています。また時にはカメラが滑るように物語の舞台を移動し、単調になりがちな全体の構成に豊かな空間造形を与えています。走り行く兵士たちと群集を俯瞰からとらえたショットも当時としてはオリジナリティに富んだ画だったに違いありません。
近年奇跡的に発見された
プリントからおこしたデンマーク語字幕の完全版とでも呼べる本バージョンには力強く切ないピアノによる音楽が挿入されていますが、オリジナルの音楽はどんなものだったのでしょうか。メニュー設定で音楽がついていないバージョンも観賞できるので、もともとオリジナル版には音楽はなかったのでしょうか。音楽なしでこれだけの映像コンテンツだけを観賞するには少し無理があるのではとも思えますが、それにしても心に残る俳優たちの力演、面白いカメラアングル、ドラマティックな演出に心奪われる永遠にみずみずしいサイレント映画であることは間違いありません。