1973年のアメリカ映画。警察学校を卒業してNY市警の麻薬課に配属された新人警官セルピコは、汚職のはびこる職場の現実に怒り、賄賂の受け取りを拒むが、それは犯罪者だけでなく同僚までも敵に回して孤立無援で戦わなければならないことを意味した・・・という実話に基づく作品です。監督は社会派シドニー・ルメット(「12人の怒れる男」)、主演はまだ若手(!)実力派という位置づけだった
アル・パチーノ(「ゴッド・ファーザー」「スケアクロウ」)。当時、警官の汚職という題材もまだショッキングであり(最近は、めずらしくない話になってしまいましたが)、監督・主演の2人がいずれも絶好調の時期であったこともあり、見ごたえのある力作となりました。ここに描かれたセルピコのタフな理想主義は、今観ても心を打つものがあります。
ただし、パチーノ力演振りは時に力が入りすぎ、また、警官汚職という問題の背景に対する掘り下げも不足していたため、あまりに単純な「善」対「悪」の図式的な物語になってしまった感があります。
ルメットもこの点が気になったのか、1981年に「
プリンス・オブ・シティ」という、再び警官汚職を題材とした作品を撮りました。こちらの作品は、汚職に手を染めた側の警官を主人公にして、彼らを人間として掘り下げて描いています。この映画の主人公は、自身が汚職に手を染めながら、罪悪感に苦しんで内部告発者となりますが、その結果、友人でもあった同僚達の人生を狂わせる結果になり、今度は彼らに対する罪の意識に苦しむことになるのです。
「セルピコ」は警察学校の卒業式で始まりますが、「
プリンス-」は警察学校がラストシーンとなります。そして、このラストシーンに、ルメットはセルピコを思わせる若者を登場させています。この演出により、ルメットは、「
プリンス-」が「セルピコ」でやり残したことに対する落とし前であることを示したのだと思います。関心のある方は「セルピコ」とあわせて「
プリンス・オブ・シティ」もご覧になってください。
キネマ旬報2008年度の日本映画部門での受賞者は最優秀主演男優賞は「おくりびと」の本木雅弘さん
最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞も「おくりびと」と滝田洋二郎監督と小山薫堂さんが受賞して改めて「おくりびと」の人気、優れた作品だと思います。米国
アカデミー賞最優秀外国語映画賞で日本の作品で初受賞おめでとうございます。他にも最優秀主演女優賞に「トウキョウソナタ」、
「グーグーだってねこである」の
小泉今日子さんや最優秀助演男優賞に「クライマーズ・ハイ」、「
アフタースクール」の
堺雅人さんなど今の日本映画界を支えている人気の役者さん達が揃ったという印象です。2008年度は2006年度以来2年ぶり洋画の興行収入より邦画の興業収入が上回り相変わらずTV局制作の映画は多いのですが「闇の子供たち」や「接吻」、「ブタがいた教室」など単館上映系の映画の方がメッセージ性が強く独自性の強い良作の映画を生み出している気がします。
日本映画の好調さが見えた気がします。これからもいい日本映画が見られることを期待しています。
F・S・ホフマン演じる兄と、E・ホーク演じる弟。
NYC、クイーンズに住むふたりの共通点は「金が無い」ことだ。
とはいえ、よくある貧困からの発想ではなく、ふたりの生活は表向き華やかだ。
当座に必要となった金策のために兄が考えたシナリオは「宝石店強盗」だった・・・
この導入部からしてグイグイ引き込まれる。
さすがS・ルメットという感じだ。もう80も半ばに差しかかっての骨太作品。
どちらかというと晩年の黒澤監督が柔和になっていったことと好対照である。
兄の強盗計画は非常に甘い(笑)。中学生くらいでもこのくらいは描けそうなシナリオで、
また弟も輪を掛けて使えない。このバカ兄弟の軽はずみな計画が、両親や妻を巻き込んでの
悲劇になっていく。
観客もこの甘さは5分で気が付くので、いかに脆弱なプランを実行するのかを「兄弟の視点」で
観ることになる。
日本でもこういう素晴らしい脚本のサスペンスに巡り合いたいものだ。
兄弟役のふたりに加えて、40歳を超えても抜群&妖艶なプロポーションで魅せるM・トメイや
父親役のA・フィニーらオスカー級の俳優が揃うのだから、文句のない出来栄えだ。
ラストも決して幸せに終わらないが、これがルメット最期のメッセージだったのだろう。
ニューヨーク派のルメットらしく、ロケも全て「本物の」NYCだ。
近年は
カナダで撮られる作品も多いのに(というか半分以上そうじゃないか)、あくまでNYCに
こだわったのも良かった。
本作は2007年作なので、ルメットもこれがラストとは考えていなかったと思うが、
代表作のひとつに挙げてもいい出来栄えで締めくくるのはカッコいい。
特典映像はメイキングと音声解説が収録されている。
ソニーのマスタリングなので、DVDながら画質も上等。ブルーレイじゃなくても良いと思う。
星は4つです。
『狼たちの午後』という邦題がついていますが、「ゴッド・ファーザー」のあの
アル・パチーノとジョン・カザールを期待してはいけません。というのも、この作品は、マフィアの世界とはまったく別のアメリカ社会の陰影にメスを入れています。
アル・パチーノは確かにかっこよくもあるけれども、よく見るとかなりマヌケでもある。人間味の満ちた演技は当時からすばらしかった。ジョン・ガザールや他のキャストの好演も十分楽しめます。
音楽はオープニング以外、一切使われておらず、場面中の雰囲気がじわじわと伝わってきます。今の
ハリウッドでは、こんなことはやらないと思います。70年代ならではの映画ですね。
お若い方々はご存じないと思いますが、小山田宗徳さん版の「12人の怒れる男」こそ本当の舞台劇のすごさを日本語で味わえる稀有な機会と思います。「ナイフを買うことは法律に違反します」「私は、違反しました」と言う時のぐっと抑えた感じはすごいです。「私はまだゴミのにおいがするかもしれない」という中村正さんの5番。「少年の証言はすべてでたらめだと思います」と冷たく言い放つ穂積隆信さんの4番も絶品です。「だからなぜ無罪なんだ」と迫る川久保潔11番に「理由なんかねえよ」と答える大塚周夫7番。それを「理由が無ければ納得できん。なぜだ!」と迫る名場面。「申し遅れました。私はマッコークリ高校のフットボールのコーチでしてね」という小林修1番に「キャンディーはいかがですか」という辻村真人2番。私は、日曜洋画劇場放映当時に学生で、オープンリールのテープにとって(テープはどこかへ行ってしまいました)200回ぐらい聞きましたが、最後の最後、「お名前は?」「メープル」「私はマッカードです」「さようなら」「さよなら」(この「さよなら」がすごい)まで、ひとつひとつの場面が心に沁みるすごい吹き替えで、これを生きている内にもう一度楽しめるのは望外な幸せと思います。まだご存命の当時のNET吹き替えチームに当日の裏話を聞きたい感じですね。とにかく私(わたくし)的には、歴史的な出来事と思っています。