ストーリーは黒澤明が大きく影響を受けたというフランク・キャプラのような
現代(製作時)の御伽噺のような理想を描いた脚本です。
醜聞という
タイトルから想像されるよりエンターテイメントかもしれません。
まずは若き三船敏郎のバイクに乗る絵描きというのが実にかっこいい。
見た目だけでなく真っ直ぐで強い信念を持ち、芸術家としてもわが道を行く。
対照的に描かれる志村演ずる
弁護士のなんと薄汚く惨めで哀れなことか。
このコントラストが痛快なラストまで一気にひっぱるのだ。
しかし今観るとこの国は金銭的には豊かになったが
スキャンダルや情報操作は日常の娯楽の一部となってしまい人権をマスコミが踏みにじる事が
当たり前になってしまった事が悲しいですね。
「醜聞(スキャンダル)」は黒澤明が「黒澤明」になる以前のウェルメードな小品とされているが、技術的な冴えにしろ、テーマの生真面目さ、生硬さにしろ、いかにも黒澤明らしい作品だとも言えるのではないか。
黒澤映画としては通俗的すぎる場面は確かに多いが、俳優の芝居のうまさと魅力であまりそれを感じさせない。志村喬、千石規子、左卜全、小沢栄太郎などの達者な芸。三船敏郎がオルガンを弾くレアな姿。なぜか峠まで歩いて来る山口淑子(李香蘭)。珍しく黒澤映画に出ている北林谷栄。可憐・桂木洋子の目の輝き。後の名悪役・神田隆は長髪の二枚目。三井弘次や日守新一もパターンの演技ながら、黒澤映画愛好者には懐かしい顔。
でも何と言ってもこの映画でグッとくるのは、へべれけに酔いながら「来年こそは!」と気炎を上げる左卜全と志村喬の場面。弱い男の心の中の叫び。黒澤も我々と同じ弱い(ところもある)人間なんだなぁ、と感じさせる珍しいシーン。
三船と志村が見上げる満天の星。「世界の黒澤」も案外メルヘンチック。必見。