虫たちの知られざる生活、虫(きのこや貝である場合もあるが)と人との関わりが、時にそれらの擬人化をともなって描かれる短篇漫画集。ハエトリグモ、ヒョウタンムシ、ノミ、フユシャク…登場するのが蟻や蜂のような馴染みの深いものばかりではないところからも、作者の虫への愛が窺える。
それにしても、とても丁寧に作られた一冊だ。本篇における精緻な描線、キャラクターの心情描写、昆虫の生態の捉え方はもちろん、毎回趣向を凝らした各話の扉絵も「虫けら帖」と題された漫画式コラムも含めた全体に配慮が行き届いている。かと言って力が入り過ぎることはなく、物語にも想像の余地の残されているものが多いので、窮屈な感じがなく読める。また、時おり挟まれる幻想的とも言える情景描写がとても美しい。
さらに、作者は江戸以前の日本
美術や絵物語が好きなようで、伊藤若冲の模写をいくつか試み、「土蜘蛛草子」と「鼠の草子」を漫画にアレンジして本書に収録している。それらもこの短篇集の多様性を高めるのに一役も二役も買っている。
時に生々しく描かれる虫の姿と、独特ののっぺりとした人物の描き方に抵抗を覚えなければ、多くの人が愉しめるすばらしい漫画だと思います。