梨木氏の作品には、「西の
魔女が死んだ」以来触れていなかったが、
今回知人の薦めで本作品を読み、改めて氏の魅力に触れることができた。
主人公征四郎と、掛け軸の中からときおり現れる高堂。
ストーリーはこの二人を主軸とし、あやかし、物の怪、精霊たちと織り成す、
意表をついた、それでいて調和の保たれている世界を背景に進められる。
征四郎は魑魅魍魎に愛され、時には騙されてしまう少々情けない人物なのだが、
それを卓越した視点から見つめる高堂の眼差しには、生きているものにだけ向けられる
静かな愛情がある。
タイトルは、是非本作品を読んでから、味わって下さい。
自然という手軽な言葉で表すには大きすぎる、太古から続く命の営みの力強さ。その中に居場所を見つけ、切り開き、切り開き、生きる人間の小ささ、強さ。息苦しいほどの自然の息吹、時の経過の過酷さと優しさがみっしり詰まった良い本でした。
綿貫征四郎は梨木香歩に憑依して山中の有象無象を描かせた。
梨木香歩は綿貫征四郎に憑依して世の森羅万象を描かせた。
彼の紀行文。彼女の小説。随筆と表裏一体の小説。
直前に梨木さんの紀行や随筆を読んでたので特にそう感じたのかもしれないが。
綿貫征四郎というあの時代を感じさせるネーミングの何と心地
よいことか。
そして南川のように摩擦を起こさずに生きて行かねばと思った。
今から梨木ワールドに入る人は家守奇譚の次には
村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)を経てこの作品に来て欲しい。
そしたら完璧。
このシリーズはずっと続けてもらいたい。
梨木さんの今後にもとても期待します。
同年5月12日追記
2006年11月に上梓された彼女の作品「水辺にて」。
この中の「常若の国」に
冬虫夏草に至る着想のようなものが語られている。
私の私見かもしれぬけど。