マレーネ・ディートリッヒの名唱の数々が、デジタル・リマスターで装いも新たに登場した。
音源の大部分がモノラルの時代であるにも関らず、演奏も彼女の唄声もひたすら瑞々しい。丁寧なリマスタリングが施されており、曲目もCDの限界まで詰め込んだ何とも贅沢な逸品だ。
本当は3曲目『フォーリング・ラブ・アゲイン(嘆きの天使)』、この曲のイントロがカットされて了ったのが非常に残念。この曲はオープニング・イントロの響きが極上のものであるため期待していたのだが、本CDでは省かれ、
間奏のピアノから音源が始まっている。
しかし、他の作品を全て聴いたが全体に丁寧なリマスターが成されており、より多くの曲を聴衆に届けたいという意向もあるのだろう。
3曲目以外、筆者は非常に満足したため5つ星を付けた。名曲が失われて久しい現在、多くの方に聴いて頂きたいマテリアルである。購入して損をする事はないだろう。殊に23曲目『
ベルリンの
スーツ・ケース』はディートリッヒそのひとの生き様を思い起こしつつ聴いて頂きたい。
ジョゼフ・フォン・スタンバーグ監督の1930年の作品です。時代と場所はワイマール共和政治時代の
ドイツの小都市で、主人公は堅物を絵に描いたような厳格なギムナジウムの教授のラート氏(エミル・ヤニングス)です。原作とされるハインリッヒ・マンの小説では一人息子がいる57歳のやもめの教授との設定ですが、映画でもそのあたりの年齢です。町のナイトクラブに出演している旅回りの一座の歌姫ローラ(マレーネ・ディートリッヒ)の写真を生徒が持っているのを見付け、補導の目的でナイトクラブを訪れます。
あれほど厳格だったのに、いや、それまで全く女性を遠ざけてきたからこそなのか、すっかりローラの色香に迷ってしまい、教授はそれまでの地位を捨て彼女と結婚し一座と一緒に旅回りを続けます。しかし、育ちも身分も違う二人の結婚生活が長続きするはずもありません。
ちょっとした運命のいたずらに翻弄される主人公。『カルメン』のドン・ホセやトマス・ハーディの作品の主人公たちを思い出しました。最後の場面は当時の映画に特有の、いわば歌舞伎の型のようなものです。映画の原題は Der blaue Engel (憂鬱な天使)で、教授がローラと出会うナイトクラブの名前です。なお、この映画は同じ役者が
英語で演じた
英語版も存在します。
50才過ぎて本格的にコンサート歌手としてデビューしたディートリッヒが、歌のテクニックも声の質も一番良かった頃(多分60年代初め)にレコーディングした歌を収録しています。
ドイツ語版では(最後の曲だけ何故か
英語ですが)ベストでしょう。
英語の歌に比べて、明るい歌はとてもリラックスして、
バラードは、より感情をこめて、歌っています。なお、
英語の歌を中心にしたものでは、Dietrich in Rio がお薦めです。
20世紀を彩った
ドイツ人女優・歌手の
ドイツ語歌唱を集めた今なお魅力あるベスト盤の傑作。第二次世界大戦前のキャバレー時代の歌、戦中の一輪の花のような名曲・M18、戦後バート・
バカラックがアレンジした曲等がCDの容量一杯に詰まっており、かつ01年デジタル・リマスターの音質が良好。解説も簡潔ながら要を得ている。
本作収録の歴史的歌唱の中で私が特に注目したいのが、
ドイツ語の歌詞でレコードに吹き込んだM12、20、21。2つの世界大戦を経験した彼女ならではの、反戦のメッセージに応じるアンテナの鋭敏さ、そして良い歌なら新人の曲を取り上げる積極さに敬服する。そういった感性の豊かな人だったからこそ、長い歌手生活を全うできたのだろう。実際、数多の人によるこれらの曲のカヴァーの中でも、彼女による
ドイツ語でのカヴァーは別格の存在感がある。フォークを新しい文化として定着させた恩人といっても過言ではない。今でも一度は耳を傾ける価値ありと思う。
個人的には同名映画でシャーロット・ラン
プリングがカヴァーしたM16も印象に残る歌だ。
ディートリッヒとスタンバーグ監督とのコンビ最後の作品(撮影もスタンバーグが担当)。彼はこの作品の製作中に、ディートリッヒとのコンビ解消を発表した。悪女の
スペイン娘コンチャ・ペレスをディートリッヒが演じ、彼女に身を滅ぼされる軍人役は、スタンバーグ自身ではないかと言われている。マレーネのメーキャップは、それまでと一変し、柳のような眉と肉感的な唇になり、ディートリッヒの美貌は一段と過激になった。
スペイン娘の衣装は、もちろんトラヴィス・バントンのデザインで一級の芸術品である。カリカチュアされた、マレーネの演技は眼を見張るもがあり、彼女自身一番すきな作品だったというのも納得できる。もちろんステージで、陽気に歌うマレーネも登場し、もう“ビバ・マレーネ!”と叫びたくなります。断然お勧め!