深夜の告白 [DVD] FRT-118
陰影をことさら強調した映像、すなわちほとんどのシーンは夜、夜と言えばファム・ファタール(悪女)、だから男は裏切られる、男は暴発、よって完全犯罪なんて有り得ない。フィルム・ノワール(犯罪映画)というジャンルの提示する世界観は、連想ゲームのようなものです。良く言えば一貫としていて完結的、悪く言えば愚直。「深夜の告白」はその先駆けと呼ばれるにふさわしく、これらすべての材料が大皿に盛りつけられたサスペンスです。
そしてタイトルにもあるように、この映画は主人公の「犯行の自供」から始まるわけです。それは、物語を哀れな幕切れを前提に語り始めなければならない、一種の陰鬱なトーンを与え、また、分かり切った「結末」よりもそれに至る「過程」こそ重要なのだと宣言することでもあります。
また、そこからの物語は、主人公の独白に沿って時系列順にフラッシュバックされる形式を採っています。そうすることで、自嘲的な主人公のナレーションと、野心がギラギラいきり立っているかつての主人公とのシニカルな対比を生み出していました。これは今では凡庸な手法ですが、当時は相当リスキーで画期的だったに違いありません。
世界名作映画全集 深夜の告白 [DVD]
白いバックに松葉杖をついた男のシルエット。男が杖をつきながらこちらに歩いてくる映像にのせてオープニングクレジット・・・冒頭からゾクっときます。深夜のオフィスで瀕死の重症を負いながら主人公ネフ(フレッド・マクマレイ)が事件の真相を告白する回想形式のストーリー展開。利己的で冷血で、にもかかわらず、
えも言えぬ魅力を湛えるバーバラ・スタンウィックのファム・ファタールぶり。成功したかと見えたところから一転してたどる破滅のプロセス。これこそフィルム・ノワール。名優エドワード・G・ロビンソンが演じる保健調査員キーズがまた素晴らしい。ネフとキーズが会うシーンはかならず”ハロー、キーズ”からはじまって、いつもタバコをくわえてから火のないことに気づくキーズにネフが火をつけてやって終わる。実はそれは伏線になっていて、ラストでは逆にキーズがネフに火をつけてやるんですね。紆余曲折の事件の末に、ラストでネフに火をつけてやるキーズの心情が胸にグッと染み込んできます。フィルム・ノワールは理屈ではなくムードで観るものですが、いかにもノワールらしい香しさを漂わせる傑作中の傑作。