炎~あなたがここにいてほしい~
「狂気」の大ヒットに一番戸惑ったのはピンク・フロイド自身であろう。大ヒット・アルバムの後は大抵方向性を失うものである。「Sgt. Peppers」や「Hotel Calfornia」の後のように。「炎」も例外ではなく、「俺達これからどうすりゃいいんだよ ?」とシド・バレットに語りかける「Wish You Were Here」がアルバム・タイトルになったりする。
だが、私はフロイドの中でこのアルバムが一番好きであり、もっと言うと一曲目の「Shine On You Crazy Diamond」が最もフロイドらしくて大好きである。フロイド(R.ウォータース)の曲構想とD.ギルモアの(良い意味での)コマーシャリズムがマッチした傑作だと思う。R.ライトがシンセサイザーで醸し出す幻想的で静謐感に溢れた音楽空間が徐々に拡がる中で、その空間をリフを多用したD.ギルモアのギターがこれまた徐々に切り裂いて行く構成が堪らない。タイトル曲も特定個人を念頭に置かなくても、人間の孤独をテーマにした意匠に普遍性があり、聴く者の胸に迫る滋味溢れた佳曲だと思う。
この他、唸りをあげる正体不明のマシンが「ようこそ」と呼び掛ける「Welcome to the Machine」が相手にしているのは、それまで自分達に見向きもしなかった一般大衆かなと思う。「Have a Cigar」はやはり自分達に見向きもしなかったレコード会社のお偉いさんに対する皮肉がテーマだが、その裏返しとして自分達の戸惑いを表現してようにも思える。この2曲はサウンド的にも良く出来ている。
このように本アルバムが対象としているのは、一般人にも通じる心情であり、プログレッシブ・ロックと構えず、心静かに聴けるお勧めの傑作アルバムである。