PUNCH THE MONKEY 2 Lupin the 3rd ; Remixes & Covers
シリーズ3枚から編まれたベスト『LUPIN THE BEST! PUNCH THE MONKEY』への採用トラック数でいうと、このアルバムからは最多の5トラック(1作目から3トラック、3作目から4トラック。さらにスカパラの未発表録音が1曲)。その点、シリーズで一番いいアルバムのように思われる、かもしれないのだが。このアルバムの聴きどころは、そのシリーズ・ベストに収められた分で全部、という印象だ(ま、アルバムの半分よきゃいいじゃん、と言うこともできるわけだが)。
特に、ファンであるがゆえ頭が痛いのが、9のベンチャーズ。
オレは近年、何度となく彼らの来日公演(夏のツアー。ここ数年、彼らは冬にも、大きめのライブハウスでの小規模ツアーを行なうことがある)に出かけ、まるで重戦車のようなゴリゴリのエレキ・サウンドを堪能し、また、アルバムの方でもなかなか充実した仕事ぶりが続いていることはよくわかっているつもりだ。
なのに、これは一体………?!
やたら音が大きく安っぽいシンセ、千昌夫の如く、タイミングをズラし「ル・パン、ザ、サァァァー!」とシャウトするドン・ウィルソンの裏声(!)にかぶさるデケデケ……、何も考えずオリジナルのまんまやっちゃったのが原因だと思うが、まさにこれは悪夢だ。
このアルバムのような場合特に、「ベンチャーズって、何スか?」、みたいな若い衆にもその地力を見せつけ、新たなファンを獲得するチャンスですらあるはずなのに(そして彼らには十分、それができるはずなのに…)、なんでこんなもん聞かすのョ……?!、と思うと、ホント、悲しくてやりきれなかった。
アルバム自体、中途半端な印象だが、このベンチャーズによる録音限定での評価として言えるのは、筋金入りのベンチャーズ・マニアの方であればともかく、まさにコレは『素人にはおすすめできない』、ということだ。残念ながら。
Pills Thrills & Bellyaches
所謂「マンチェスター・ムーブメント」を代表するバンドとして、ストーン・ローゼスと並び立つ存在として語られることの多いハッピー・マンデーズの、世間的には代表作として語られることの多いサード・アルバム。
確かに、このアルバムは「ステップ・オン」「キンキー・アフロ」という彼らにとってのUKトップ10ヒットを2曲とも収録しているし、何よりもプロデュースを担当した敏腕DJ/リミキサーであるポール・オークンフォルドのセンスの良さもあって、耳ざわりのいいスムーズな音に仕上がっている。で、実際に「すごく売れた(ファクトリーレコードの社長である故トニー・ウィルソン談)」訳だから、まあマンチェ・サウンドを知ろうと思ったらこのアルバムとローゼスの1stと、あと『スクリーマデリカ』を聴けば十分、かも知れない(シャーラタンズとかインスパイラル・カーペッツとか…ノスタルジーはいいってw)。
あくまでも「入口」です。ロックに「批評的知性」や「実存的表現」を求める人ならある意味避けて通れない踏み絵的バンドだと思う。「究極の飛び道具」かつ「危険球スレスレの変化球」だとは思うけど…
でも、ローゼスが音楽的に天才の集団で、ムーブメント抜きでも「すごいバンド」だったのに対して、このハピマンはあくまでも「状況の産物」であり、「大きなマトリックスの一部」であるという違いがある。つまり、天の邪鬼のアート・ディレッタント達がロンドンのシーンに対して対抗意識を持って興した「ファクトリー・レコード」の所属アーティストであり、その先達である「ニュー・オーダーが始めたロックとダンスの融合」の正当な後継者であり、クスリをキメて夜通し踊るという、NYのクラブシーンをマンチェスターで再現した「ハシエンダ」での熱烈な支持をバックにのし上がってきた、という。実際、彼らのブレイクの下地を固めたのは2ndアルバム収録のシングル「Wrote For Luck」の、P・オークンフォルドによるリミックスがハシエンダでアンセムとなり、その12インチがロングセラーとなったからだ、というのはトニー・ウィルソン著の『24アワー・パーティ・ピープル』にも書いてあった通り。
だから、このアルバムの成功というのは確かに「収穫の果実」ではあるけれども、「ハッピー・マンデーズ」というバンドの本質的な魅力が堪能できるのは、実はこれ以前の1stと2ndということになる。ヘロヘロでボロボロ、デタラメだがドラッギーでサイケかつシュールな、正に「実存的な」生のグルーヴでこちらをギョっとさせるところにこそ、このバンドの真骨頂がある。確かにこのアルバムも良く出来てはいるのだが、この妙に収まりのいいプロダクトだけで彼らを判断するのは…残念というか、それをしてる限り「本命のローゼス、対抗のハピマン」という構図から抜け出せないだろうなあ、と。