新 三河物語〈上巻〉
家康の家臣団の視点から徳川家の台頭を描いている作品を読んだのは山岡氏の著書以来であるが、楽しんで読めた。
祖父、清康の時代の栄光から、今川の支配と忍耐の時代、尾参同盟以後の家康の東進、一向一揆争乱の著述は後の天下人になる家康の草創期として非常に面白い。
その時代を家臣団がどのようにして支えて来たかが描かれている。
岡崎衆が割れた一向一揆に関しては、信仰と忠誠の対立、三河にも世俗権力と宗教権力とのせめぎあいがあり、そのなかで三河武士団が家康を頂点とする体制に収斂されていったポイントとして興味深い。
後は、天下人にならんとする家康の変化と家臣団との距離。組織が拡大するなかで大久保党の立ち位置も変わってくる。君主と家臣の関係、組織の成長、時代考証とテーマ設定はさすがの安定感です。
三河物語―マンガ日本の古典 (23) 中公文庫
このシリーズは、名前は聞いたことがあるけど挑戦するのにはちょっと躊躇してしまう著名な古典作品を手軽に読めるので、愛読していますが、この作品と「葉隠」(黒鉄ヒロシ)は特に好きな作品です。著者である大久保彦左衛門の頑固ジジイぶりもなんだか懐かしい感じでいいし、徳川家康側近中の側近である本多正信・正純父子との激しい暗闘も、なんだか「大奥」みたいで面白かったです。見所は他にもたくさんありますが、この作品は、特に家康の描写が秀逸です。見るからに狸オヤジという感じでしっくりきました。津川雅彦氏の演じるものとムロタニツネ象氏の描くものに並ぶほどの出来だと思います。この作品を読んで、古典も面白いなぁと感じた人は、是非、角川ソフィア文庫から出ている「枕草子」や「徒然草」にチャレンジしてみてください。こちらも、現代語訳がついており、非常に読みやすくなっています。