もともと、碁打ち・将棋指しが徳川幕府に召し抱えられたのは、かれらをつうじて各大名家の事情に通じる、という目的がひとつあったことは周知のことと思われる。つまり、かれらはスパイとしての役割を期待されていたのだ。この史実をもとに、棋聖天野宗歩は実は幕府の隠密だった、という発想で描かれた本作。作者の斉藤栄は東大将棋部の出身であり、かなりの実力者ということである。作品中に当然のことながら宗歩の実戦譜が登場するが、解説は高段棋士の意見を参考にしているとは思われるが、中には棋譜を暗号として読む、という、いかにも推理小説家らしい発想も登場し、なかなか興味深い。 江戸時代の棋士に興味がある方は一読の価値のある小説だ。
物語の展開が凄く面白くて、一気に読んでしまいました。
戦前から戦中、戦後にかけての混乱期に青森刑務所・秋田刑務所・網走刑務所・札幌刑務所からの脱獄に成功し、それぞれ、三日間・三ヶ月間・二年間・三百日間の逃亡生活にも成功した稀代の脱獄超人白鳥由栄の生涯を追ったノンフィクション! 白鳥氏が健在な時期に本人へのインタビューに成功したため、かなりの確度で事実に迫った快作だと思います。面白くて一気に読みました。常人には実現不可能な脱獄の詳細は驚嘆するものであり、その後の逃亡生活も軟弱な現代人を一喝するかのようで爽快感があります。しかも、それが100%事実だっていうのだから天晴れという他はありません。それにしても、脱獄には何故かロマンを感じてしまうなあ。
斎藤栄の時代物ということで、「小説天野宗歩」のような時代ミステリーかと思いきや、純粋に時代小説でした。
舞台は、鎌倉は腰越です。
主人公は、父親を殺され、母親は自害ということで、仇討ちに出る大川浄之助(犬山蓮次郎)です。彼は、旅の途中で富山の薬売りの女性お静と出会います。この女性は、謎が多く正体がわかりません。父親の知人の名峰からヒントを得て、お静の手助けもあって、無事仇を討ちます。
普通だったら、ここで物語は終わりなのですが、この作品はここからが本番です。
しかも、物語はお静中心に展開してゆきます。男は、女の言うがままといった感じの物語の推移です。このあたりは、幕末の不穏な各藩の動きを背景にした展開になります。
そして、陰に隠れた本当の仇が見えてきます。
ミステリーでなくて残念ですが、ストーリー・テラーらしいスピーディな展開で楽しませてくれます。
蛇足ですが、途中、二宮金次郎の話もあって、初めて小田原藩で活躍した人だと知りました。
手首が塩詰めにされてとどくという猟奇殺人で、そういう攫みの進塁は結構良かったです。ただ、草加の過程では、ちょっとだれてくるかな・・。この作者って文章が、基本的に硬いので読みにくいのねぇ・・。
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