林由美香という90年代始めに活躍したAV女優と、その監督でありながら彼女に恋をして付き合った平野勝之の二人を中心としたドキュメンタリー。前半は、二人が自転車で新宿から日本最北端の礼文島へ旅をする様子を描き、後半は平野が林に別れを告げられながらも誕生日にインタビューをしようとした際に不幸にして発見してしまった林の死、そして、その死をどう受け止めるかを葛藤し続ける平野と林のママを描く。
全体に画質はホームビデオと同じなのでBlu-Rayで観る必要は全くないし、他のレビュアーも言われるとおり声が非常に聞きにくい(TVの「クリアボイス」機能がとても役立ちました)。大画面で見るよりも、iPadとかでヘッドフォンで至近距離で観たほうがかえって没入感があっていいかもしれません。
林由美香は、さすがにAVやっていただけあってキモがすわっている。だから他人に対してのシンパシーに欠けるところがあり、それが平野は気に入らない。せっかく礼文島までいったのに喜びをわかちあってくれない林に平野は思わず張り手をくらわす。でも林のことが好きで好きでしかたがない平野は結局は謝って許しを請う。
旅行が終わって平野に別れを告げてから34歳になった林はインタビューに答えて、「あの旅行は私のネタ帳の一つ」と答える。平野にとってはあの旅行は彼の全てだったはず。
体は抱けても心まで決して抱くことのできない女。そういう女に男は最後まで翻弄されるわけだ。
そして訪れた林の死。当日不審を抱いた平野がママに連絡。林の部屋の鍵をもって林の死体が眠る部屋を開けて平野が林の遺体を発見。すでに死臭の漂う部屋で娘の死に直面したママは携帯を持ったまま娘に必死に話しかける。その様子をカメラは捉えている。
酒と睡眠薬の事故死。だけど死の瞬間に林は何を思ったか。やっぱり「ネタ帳の一つ」と考えたのか?平野が言うように、遺体を取れなかった平野のことを「監督失格」と叱るのだろうか。おそらくそうだろう。
ママは言う「人間は二度死ぬ。一度は肉体的に死ぬとき、二度目は人から忘れられるとき」。最後の平野は林の死後、5年もたってから突然涙を流し叫ぶ、別れたくない、と。これは二度目の死に直面した男の姿なのだろう。
2010年2月19日にサードアルバムを発売される川本真琴さんの歌が入ってます。
私はこの映画を見ていないし、このCDも一曲目(歌:川本真琴)しか聞いていません。
サントラなので短い曲ですが、とてもよい曲でした。
川本真琴の声って良いですね。それだけでもこのCDを聴く意味はあると思います。
曲調はゆったり、詩は別の人が書いていて、男性目線の内容。
それなのにじっくり丁寧に歌う川本真琴の声でものすごくグッとくる。
サードが待ちきれない人、聴いてみてはいかがでしょうか?
評価は一曲しかきいてないので一応星ひとつ減らしておきました。
林由実香は元来AVの人である。このようなピンク映画にも出ているわけだが、表情だけで語る役をそれなりにうまくこなしている。30分過ぎたあたりで結末の予測がついてしまうのだが、それは、主人公のやや偏執的な妄想を、部屋に飾ってあるボーリングのボールにしゃべらせたりする低級な仕掛けで表現するセンスのなさ故である。あのあたりは、もうすこし微妙にやらなくてはならないだろう。からみのシーンは、格別AV的ではない。林も絶叫せず、より映画的だ。この作品では、性や生が「食べる」という行為と等値に扱われており、「弁当」は愛情のメタフォアーとして使われている。それ故、幕切れの林由実香の台詞は象徴的だ。ま、結構楽しんだ。
『若くして亡くなったAV女優の林由美香が、韓国製の謎のAV作品に出演していた』という所から、彼女の幻影を追い求めてドキュメンタリーはスタートするのだが、なんとも不思議な空気感を漂わせている作品だ。
見方によっては、シュールとも受け取れるし、喪失の物語とも受け取れる。冷静になって見ると「ちょっと気持ち悪いな」と思ってしまう部分もある。
彼女と深い親交のあった関係者たちは、未だに彼女を喪失したことに対して傷をおっている。下手すれば、人の心の中に土足で踏み込んでしまいかねない重い題材だが、松江監督が林由美香の軌跡を辿る理由や熱意がいまいち伝わり辛く、この題材のリスクを扱う重みをあまり理解していないように感じた。
そもそも何故、韓国のAV作品に出演したことにそんなに拘るのか、出演している韓国のAV男優が日本語を使っていることに拘るのかがよくわからなかった。
このAV作品の、カットされていたラストシーンにあった「誰も彼女を所有することはできない」というセリフが、奇跡的に林由美香自身のことを指していたという結論で締め括られるが、松江監督自身の「林由美香は何だったのか」という結論をもっと知りたかった。
もし林由美香がこの作品を見たら、「松江君、まだまだね」と言っていただろう。
それでも不思議と見入ってしまったことと、鑑賞後に感想を言いたくなったこと、劇中に使われている豊田道倫と川本真琴の音楽がやけに良かったので星3つです。
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