ヤノマミ族とは、奥アマゾンで1万年以上(!)独自の文化と風習を守り続ける人々である。「ヤノマミ」とは、ヤノマミ語で「人間」という意味だそうだ。この本は、NHKスペシャルを元にしたルポルタージュである。たとえばアメリカインディアンに関する映像や書籍を見ると、独特の世界観や死生観を感じる。ヤノマミの人々の言葉からも、同じようなものを感じた。 いつまでも怯えていると、気の毒に思ったチチリが現れてこう言った。 「怖かったら話しなさい。 私が言葉を教えるから、みんなで話しなさい。 家族で話し、友人と話し、客人が来た時にも話しなさい」 以来、ヤノマミは闇夜に話す。 闇の精霊チチリに教えてもらった言葉で、闇夜に話す。 (本文より)150日間、彼らと行動を共にし、同じ時間の流れに身を委ねた著者の素直な感動と、人間への畏敬の念が伝わってくる。 ヤノマミ 関連情報
NHK-DVD ヤノマミ~奥アマゾン 原初の森に生きる~[劇場版]
アマゾンの奥地で原始時代そのままの生活をする先住民ヤノマミ族を、のべ150日間の共同生活を通じて取材したドキュメンタリー。昨年のNHKスペシャルで観て衝撃を受けたが、このたびテレビでは放送できないシーンも収録したこの劇場版を視聴する機会に恵まれた。本作の中心となるのは嬰児殺しの習慣の丹念な取材である。精霊信仰を背景に、実に新生児の半数以上が母親の選択で殺され、嬰児の遺体を白蟻に食べさせることで、自然のもとへの帰される。妊娠をした一人の少女を追うことで、この習慣の全体をつまびらかにしていく。現代でもこのような習慣に基づいて生きる人がいることに衝撃を覚える。他にも、野生動物の解体現場、裸で共同生活を送る日常の描写など、見る者に衝撃を与える映像は多い。ただ本作は、取材対象であるヤノマミからは一定の距離を置き(取材者、撮影者ともに画面に登場しない)彼らの生活を理想化するでもなく、批判的に捉えるでもなく、ありのままに映像化することで、見る者の判断にゆだねる、というスタンスを貫いている。凡百の映像作品のように、無理にお友達になったり心の交流が生まれたり、というお仕着せの感動は切り捨てている。このことが、彼らの独自性や世界の多元的価値、ということを考えさせ、きわめて優れた取材映像として本作を成らしめていると思う。優れたドキュメンタリーの条件は、見る人それぞれに考えることをおこさせるというものだと思うからだ。DVDの特典映像で監督が語った取材のスタンスが興味深い。ヤノマミはもともと他民族を人間以下のものとして見下しているが、さらに取材班が高齢だったことで、いわば人畜無害の空気のような存在として集落にいられたことが、結果として様々な映像を撮ることの成功に繋がった、と。心の交流はあまりなかったと話しているのも面白い。この謙虚な取材スタンスが、本作という傑作を生み出したのだと実感させられる。 NHK-DVD ヤノマミ~奥アマゾン 原初の森に生きる~[劇場版] 関連情報
ヤノマミの女は森にはいって出産する。生まれたばかりの赤ん坊は人間ではなく、精霊である。だから、人間として育てるか、精霊のまま天に返すかは、女が決める。厳しい人口制限の方法である。集落には年子がいなかった、計画的な産児制限をしているわけではない。食べさせることができない。村人のひとりとなることの許されなかった赤ん坊は、精霊として母の手で天に戻されるのである。しかし、このヤノマミの文化を正面きって否定できる文明人はどこにいるというのだろうか。 ヤノマミ (新潮文庫) 関連情報