トラウマティック・ストレス―PTSDおよびトラウマ反応の臨床と研究のすべて
この本の広範な内容から見て、ほんの一つの切り口に絞ったコメントに過ぎないが、いわゆる「偽りの記憶症候群」論争に関して、どの方向にバイアスがかかるにせよ何らかのメッセージを発する前に、少なくとも本書を読み通しておくことが前提になるだろう。精神医学や神経生理学の狭義の専門家、または専門的な臨床家でない読者にも十分理解できる質の高い丁寧な記述である。難点はかなり高価なことだが、この内容であれば妥当である。なお、本書はあくまでも本書の出版年である1996年までの最も質の高い世界標準であり、言うまでもないことだが、それ以後のさまざまな研究の動向を知りたい読者は個別の論文に当たっている。それは専門家たちの話であるが、言いたいことは、本書のようなスタンダードはそれ以後出ていないし、そう簡単に出せないということである。また、今年の夏、本書の中心的な著者ヴァン・デア・コルクの教授を受けている専門家の演習に出て聞いたことだが、本書の内容もすでにかなりの程度(本書の内容を発展させる方向で)更新されつつある。 トラウマティック・ストレス―PTSDおよびトラウマ反応の臨床と研究のすべて 関連情報
本書は92年に暗殺された、マフィア対策で名高い二人の検事ジョバンニ・ファルコーネとパオロ・ボルセリーノの死闘を軸に、イタリアにおける伝統組織から新興集団というマフィア勢力の移り変わり、そして闘争を通じた市民の反マフィア気運の盛り上がりを描いたもの。マフィアといえばイタリアの名物、我々は映画でしか見たことがないが、彼らは実際のイタリア社会において失業者への仕事の差配、公共事業の請負、政治家とのコネクションなど日本のヤクザは比較にならない影響力を有している。しかも本来民衆の保護者であったある種の牧歌性をも失い、利権の搾取と凄まじい暴力傾向を強めているのは本書の通りである。本書の主人公ふたりが車を爆破され、機関銃で殺害された事実は映画を超えたマフィアの凶暴性を如実に物語る。本書は94年のイタリア新政権成立で終わっているが、アンドレオッチ首相に代表される政治とマフィアの腐敗関係などは容易に解決される見込みはないと思われる。最後に、訳者がマフィア問題の専門家でないのは「あとがき」の底の浅さなどからやや残念に思った。 シチリア・マフィア―華麗なる殺人 関連情報