さらっと読むとかえって途中で難しくなってしまうので、冒頭の部分をしっかりと読まないと本当の目的が分からなくなります。本文中にも「新しい論理学」という言葉が頻発しますが、その言葉も意味を知っていないと空回りしてしまいます。冒頭部分を抜粋すると、どうも以下の主旨の様です。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー命題Aから命題Bを推論する際には、 解釈C(コード) 与えられた状況を私的部分と公的部分に分ける。 計算 公的部分を機械的に処理する。 解釈D(デコード) 処理した結果得られた公的部分に私的部分を結合させる。現代の論理学は命題を公的部分と私的部分に分ける厳密な基準を持っている。公的部分は純粋に形式的・代数的な対象として取り扱われる。形式的な対象としての条件を論理式という。計算の、推論と証明を扱う学問を「証明論」という。解釈Dの、作業を行う学問を「モデルの理論」という。しかし、解釈Cを行う分野が現代の論理学には抜けており、数学が分からなくなる学生が目立つ様になってきた。解釈Cを扱う、新しい論理学の教育に最適な教材が数学的帰納法である。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーという事を念頭に起きつつ、条件とは何か?命題とは何か?推論とは何か?というメタ的な考察を進めて行きます。たまたま別の機会に数学的帰納法について考える機会があったので、復習の意味でも丁度良いと思って再勉強しています。すでに、いつかは勉強しようと思い、証明論とモデルの理論についての教科書も買ってはいるのですが各分野の立ち位置が分からずに戸惑っている所でもありました。気のせいかもしれませんが、なるほど高校数学 数列の物語―なっとくして、ほんとうに理解できる (ブルーバックス)で同じような説明を読んだのが、この本を買うきっかけとなりました。複数の数学者の方が、同じように感じているのでしょうか。 数学と新しい論理―数学的帰納法をめぐって 関連情報
とても面白い本でした。題名は「証明の探求」と、ちょっと厳しい感じですが内容は非常に丁寧な解説です。大きなゴールとしては「背理法」と「帰納法」の理解したうえでの、「オイラーの多面体定理」「ピックの公式」の証明ということだと思いますが、その前に「平行四辺形の面積」「11の倍数判定法」などで数学の証明に関しての導入があり、それらの問題解説も面白く、独立して読めます。個人的には、阿弥陀くじで入り口に対してゴールが一つしか決まらないことを帰納法で証明するところが、高校で学習した帰納法の扱いとはちょっと違っていて(本質的には違いません)、興味がかきたてられる部分でした。今までは主に漸化式などを帰納法で証明するというのが高校での学習の主だったものですが、阿弥陀クジのような幾何的なものも帰納法を活用して証明できるということが新鮮でした。それがあったので「オイラーの多面体定理」「ピックの公式」の証明も比較的すんなり読む事が出来たのだと思います。本書の中には、著者の経験、経歴が多く語られています。筆者は大阪大学大学院の教授ですが、大学卒業後は塾で受験指導のバイトをしたりしていたとのことで、最初の「平行四辺形の面積」「11の倍数判定法」では、中学受験のテクニックとして問題の解き方が語られています。そのような幅広い視点で問題を紹介しているのも本書の魅力だと思います。その筆者の、証明を伴わない公式だけを数学教育で教えていくことが意味がない、という主張はものすごく共感のできる言葉だと思います。本書のカバーにある「数学嫌いも必携!」というのは、気持ちは分かりますが数学嫌いには大変な内容でしょう。しかしながら、数学が好きな人には、たまらなく面白い本だと思います。お薦めです! 証明の探究 (共通教育シリーズ) 関連情報