山火事が迫る山荘という《クローズド・サークル》を
舞台にした《ダイイング・メッセージ》テーマの作品。
死体の右手が握っていた、半分にちぎられた
トランプのカードという《ダイイング・メッセージ》――。
この
解読を巡り、エラリイの推理はしだいに錯綜していきます。
カードの図案(「スペードの6」、「ダイヤのJ」)に託されたメッセージとは何か、
半分にちぎられていたのはなぜか、そしてカードが被害者の利き手にあった意味とは……。
以上のような謎を解明すべく展開されるエラリイの推理は、なかなか真相を捉えられません。
しかしそれは、なにも奸智に長けた犯人の策略の結果というわけではないのです。
犯人の無分別な行動が、巧まずして
探偵の失敗を誘発させたためだといえます。
したがって本作においては、事件全体を見渡すことのできる特権的な人物などは存在せず、
それぞれの錯覚や勘違いによって謎が勝手につくられ、自動的に事態が紛糾していきます。
犯人が判明した際、読者によっては拍子抜けに感じる人もいるかもしれません。
「結局、こいつだったのか」と。
しかし、本作の醍醐味は犯人の意外性といったところにあるのではなく、一種の《多重解決》の
興味と、鋭い人間洞察に基づく三谷幸喜のコメディのような「すれ違い」の作劇の妙にこそあると
思います。
グランジ、オルタナっていうと日本では
猫も杓子もニルヴァーナ。でもスマパンこそ過小評価されすぎなバンド。恥ずかしいったらありゃしない。美しく、激しく、儚い。これだけ曲ごとの振れ幅が大きいのに、全体での統一感は見事。やっぱりビリーの(巧くはないけど)表現力のあるボーカルとイハのひねくれギター、ジミーの爆裂ドラムがあってこそ。一番好きなバンドは、これからもずっとスマパンです。
「
エジプト十字架」以後、「アメリカ銃」と本書、その後の「チャイナ橙」「
スペイン岬」と奇抜な設定の作品が続くが、本書はその中でも最も変り種といえるだろう。
まず形式的には国名シリーズ唯一の「クローズド・サークル」ものにして、唯一「読者への挑戦状」を欠いている。
さらに、シャム双生児や「骸骨」というあだ名の召し使いの登場、舞台の山荘にも怪奇なイメージがつきまとい、極めつけは山火事に四方を囲まれるという極限状況にある。
本書ではそのような状況において、警察や科学捜査の手を借りられない中、エラリーは唯一の手がかりである被害者が持っていた「スペードの6」のカードから、純粋推理で犯人探しを試みる。
しかし、その推理は解釈の仕方によりどうとでも取れるものであり、本書に限って「読者への挑戦状」が付されていないのも、おそらく推理に隙があるのを作者も承知していたからだろうと思う。
本書の魅力は中途半端な推理よりもむしろ迫り来る猛火による極限状況の中のギリギリのサスペンスにこそあり、そういう点で国名シリーズの中で最も面白い作品といえよう。