多くの人が高校を卒業したら「サッカーはもういいや」と離れていってしまいます。その原因の一端がまさにこの本で書かれている「楽しむ」を悪にしてしまう指導にあるのだと感じています。そしてブランド志向で学校を選んでしまった子どもや親にも…。現状を変えようと取り組む4章の指導者たちの話がとても良かったです。私もサッカーを指導していますが、子どもたちにも読ませたいです。
袴田事件の一審でただひとり被告人の無罪を主張した元判事・熊本典道の波瀾万丈の生涯を追うノンフィクション。 非常におもしろい本で、一息に読んでしまった。 司法試験にトップ合格し未来の最高裁判事とも目された男は、ありあまる正義感にもかかわらず、いかにしてアル中のホームレスとなったか。 熊本を単なる美談の中心人物として描かず、アルコールへの惑溺や乱脈な女性関係、家庭内暴力といった数々の問題を抱える弱い男として描いている点に本書の特色がある。 心にもない死刑判決を無理やり書かされた男(熊本)と、心にもない自供を無理やりさせられた男(袴田)が 非情な司法のメカニズムの中で共に精神的に壊れていった様子には、不思議なシンクロニシティを感じる。
善と悪、真実と嘘、良心と自堕落心を内包した矛盾だらけの人間の苦悩を等身大に描ききった著者の取材力と筆力は見事というほかない。 これは第一級のヒューマンドキュメントである。
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