アラブの豪華なマンションに新居を構えた若夫婦。ある日、夫が仕事にでかけ、妻が1人で家にいると、いるはずのない赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。
そして、全身を黒い衣装に身を包んだ何者かが、天井や壁などあらゆる場所から出現。次々と起こる不気味な現象に悩まされる妻は、
かつて自分が産んだ子が悪霊にとり憑かれる夢にうなされるようになるのであった…。
かつて、詩人の西条八十は、地を這うような貧困と闘いながら、「今に見ていろ」と言わんばかりに、野心的な詩を書き続けた。
ところが、宝くじ感覚で、何気に投資した株で大儲けして、貧困から脱却できたのだ。
しかし、「代償」はあまりにも大きかった。西条八十を突き動かしていた「野心」が消失し、平凡な詩しか書けなくなってしまったのだ。
長い長い低迷が続いた後、西条八十に「詩魂」が甦り、「歌を忘れたカナリヤ」で復活を果たしたのだ。
同じような経緯を辿った映画監督のひとりにトビー・フーパー監督がいる。
地を這うような貧困と闘いながら、天賦の才と、ギラギラした野心が産み出した「悪魔のいけにえ」（73年）が、ホラー映画史上空前の大ヒットを飛ばし、
貧困から脱却できたのだ。しかし、「代償」はあまりにも大きかった。
トビー・フーパー監督を突き動かしていた「野心」が消失し、「悪魔のいけにえ」と比較すると、平凡な映画しか撮れなくなってしまったのだ。
長い長い低迷が続いた後、トビー・フーパー監督が「野心」を取り戻し、
スピルバーグ監督の「大いなる補助」に助けられながらも、
「ポルタ―ガイスト」（82年）で復活を果たしたのだ。トビー・フーパー監督が、「野心」を失ってから、早9年の歳月が流れていた。
だが、「ポルターガイスト」の成功が、またしてもトビー・フーパー監督から「野心」を奪い、再び低迷期に入ることとなる。
どうも、トビー・フーパー監督は、何らかの「縛り」がないと、「野心」の炎が燃え上がらないようだ。
トビー・フーパー監督自身も、その点を、よく自覚していて、本作品を制作するにあたって、「ふたつの縛り」を自らに課した。
物語の舞台をアラブにすることにより、女性の肌の必要以上の露出は御法度。ましてや、性交渉場面などもっての外。そして、ゴア描写は皆無。
ホラー映画、若しくは、オカルト映画から、ゴア要素と色気要素を取り除くと、一体何が残るのか…少なくとも「希望」ではないことは確かだ。
この「ふたつの縛り」が、吉と出るか、凶と出るか…それは、各自で確認して欲しい。
