他のレビューワーの方がディーリアスの録音史的なものも含め愛情を持ってお書きになっているが、蛇足ながら私的感想を付け加えると。
ディーリアスをはじめて知ったのは、40年くらい前に購入した故バルビローリが最晩年にEMIに録音した管弦楽作品集のレコードであった、その時に「春初めてのカッコーを聞いて」などに感銘を受けたが、そのときは印象派の影響を受けたイギリスの作曲家程度の印象しかもっていなかった。それを根本的に変えたのが、この中にも入っているニーチェのツアラトストラのテキストをもとに作曲した「人生のミサ」である。Rシュトラウスの交響詩よりもはるかに音楽的に豊かな世界が広がる。山々のなかを静にホルンが呼応しあう場面、自然の中を乙女たちが歌い踊る場面、幻想的で旋律美豊かな大作である。かつて初出の時のレコードを持っていて、いつかCDで買いなおそうと思っており、このBOXは全くよいタイミングであった。
この中に入っていない代表的な録音に、ビーチャム(ブリッグの定期市、
フロリダ組曲等ここではヒコックスの演奏で入っている)やバルビローリの管弦楽集(一部入っているが)等があるが、他のレビューワーの方も言っておられる様に、各演奏家に目配りをきかせ平等に集めたものと考えればよく。いずれにしてもこれだけのもの(オペラ、
バイオリンソナタ等の室内楽等も入っている)は他に望めない。
デュ・プレの
チェロ協奏曲も入っているのもうれしい。かつてレコードで購入したときはエルガーとのカッ
プリングとなっており、かつては何となく取り留めのない音楽だな、と思っていたのが、中年の今となってみると、この夕暮れの穏やかな起伏の世界がとてもよい。
この録音はディーリアスをこよなく愛したバルビローリの2枚半の録音を
集成したものでこれ以外には英ダットンのCDを併せて彼のディーリアス集
が全てそろう。
録音の古い順に解説していくと最初の録音は3曲(イルメリン前奏曲、
夏の歌、楽園の歩み)だがバルビローリの泣き節が圧倒的でヒスを起こす
程(イルメリン前奏曲)、夏の歌はそれこそ最高の名演(これを聴くと
他の演奏は全て平凡に聞こえてしまう程)
次は夏の庭園にてをはじめとするディーリアスが隠遁してロワン河湖畔での川遊びの情景がうかぶような名演ぞろい。カリンダ舞曲がとっても面白い。
劇音楽ハッサンのセレナードが原曲どおりテノールのソロでうたわれるのが
うれしい。
そして、ある雑誌で自分の葬儀の際にはこの曲をかけて欲しいとまで
いわせた「時節はずれのつばめ」(ディーリアスの
フロリダ時代の回想とも
いうべきメロディーがでてくる)原曲は弦楽四重奏曲で弟子のフェンビー
がアレンジしている。
最後はバルビローリの生前最後の録音でまさしく最後にふさわしい曲
アパラチアだ。この曲の良さを理解させてくれた最高の演奏、
このように聴きどころにあふれたアルバムでまさしくディーリアスファン
だけにとどまらない名演集といえよう。
☆今回に発売されたこのディーリアス作品のアルバムの目玉になっている録音は惜しくも
亡くなってしまったサー・チャールズ・マッケラスのディーリアス演奏である。
マッケラスといえばディーリアスの生誕150年を待たずして惜しくも亡くなってしまった。
奇しくも生誕100年祭を待たずに亡くなったサー・トーマス・ビーチャムのケースと大変
類似している。このアルバムはそういう意味でもマッケラスの追悼盤といえるのではないか。
その昔、私はディーリアスの音楽とは全く縁も無いと思っていたマッケラスが英Argoに
ディーリアス作品の録音を突然狂ったようし始めた意味が全くわからなかった。
ヤナーチェク作品などで有名になっていた彼に一体何が起こったのだろうと思ったのだった。
しかし今このようにセットになってあらためて聴き通してみると、マッケラスの非常に
骨太でユニークな演奏と独自の解釈で並み居るディーリアスのスペシャリスト達の中に
あってもしっかりとその存在感を示している。やはりなかなかの存在だったのだと改めて
思い知らされた。ある意味アルバム中に含まれているモノラル演奏のアンソニー・コリンズ
と共通した個性の強さを感じさせる。(シベリウスの演奏で有名だったアンソニー・コリンズ
の振ったディーリアスアルバムから【
パリ】の録音が選ばれてこのセットに含まれてる)
【
パリ】はディーリアスの作品中リヒャルト・シュトラウスばりの管弦楽曲である。
マッケラスの演奏の中では【海流】や骨太の【高い丘の歌】などがマッケラスの名演といえる
だろう。ディーリアスの歌劇【村のロメオとジュリエット】全曲もDVD化されているが
視覚的よりも耳から聴いたほうがよりディーリアスとしては宜しかろうと個人的には思われる。
アルバムの他の演奏では爽やかさを強調したネビル・マリナーの演奏や隠れた名曲である
素敵な無伴奏合唱曲、そして少しの室内楽等もおまけとして含まれているのも良い。
さらに嬉しいのがジャン・ルドルフ・カールス(ピアノ)とアレキサンダー・ギブソンによる
【ピアノ協奏曲】。この作品はドビュッシーの【幻想曲】とのカッ
プリングで日本で最初にLP
で紹介された録音である。私はこの演奏でディーリアス感が変わった。彼はどちらかというと
弦楽畑でピアノについては素人であるという印象が見事に打ち砕かれ彼の作品に興味を持って
調べ始めた演奏だったから。(曲の成り立ちについての真相は程なくして知るのだが)
それはさておき、ディーリアスの作品は今まで余りまとまって発売されていないので、
こういう集め方でなんだか得をいたような気分になれるのは良い。
生誕150年ならば出来る事なら、コリンズのモノラル盤など古い演奏をまとめて発売して
くれんかしら。デッカ録音の歌曲や未収録のおまけなどを付けてCD2枚分にはなるのではない
だろうか。
音楽はとてもよく名所によくあっています。ナレーションが無いので、音楽も同時に楽しむことができます。仕事を終わった後に30分癒しの音楽で旅行気分に浸っています。ただ、画質はあまり良くないので、それを期待している人には不向きかも。