食に対して特に興味のない就職浪人の主人公が、日々の何気ない食事について、ひたすら鬱々と考えを巡らせる漫画。食を賛美するグルメ漫画でもなければ、
節約簡単レシピなども載っていない。料理や食材ではなく、食事という行為そのものに主眼を置いた異色の食漫画である。
食事とは一般的に楽しいことであると明言されがちだ。美味しいもので空腹を満たすことは人間にとって最上の幸せであり、会食は最も楽しいコミュニケーションの場とされている。これらが一つの事実であることは疑わない。
だが、本作を読んだなら、必ずしも食事が楽しい行為であるとは言い切れないことが解るだろう。「みんな」で「美味しいものを」という要素が概ね欠落している本作で、主人公が食事を行う際は常に葛藤している。様々な場面で、様々な敵と戦っている。その滑稽な姿に心当たりがある人もいるだろう。あるあるネタもひとつやふたつ潜んでいるはずだ。
現代日本の食に関する常識にアンチテーゼを投げかける怪作。ときに食事は試練や苦行になる。たとえ、みんなで美味しいものを食べていたとしてもだ。作中で「食事は排泄と同じく隠されるべき行為」だと言及する場面もあるように、その裏にはどうしようもなくデリケートな問題が隠れていたりするのだ。
そういったマイナス面にスポットを当てた漫画は珍しい。食事における心理学・行動学についての偏ったレポートとしても、一読の価値はあるのではないかと思う。
そんな主人公の不毛な研究にささやかな賞賛を贈りつつ、最後に「お前は食よりまず職だろ!」というツッコミを添えておきたい。
施川さんの描写するざらついた少年性 という点で『オンノジ』は個人的に特別です。自分の姿をなくした なぜかフラミンゴな少年。こうすることによって これまでになく普遍的で若い読み手の共感を得られる少年性が ここには込められています
つくづく今の日本での児童文学(YA)というものは漫画表現のほうでしか才能を見られないと思えた作品
恋愛だの家族だのを物語化する前に、もっとある、ちいさくない世界と言葉と自分を持っていることがどういうことなのかということ、自分自身に関心を向けるのが、いや猛烈に目が耳が考える頭があることが楽しいことに読後なっていること
優れた文学作品が持つこの効能を『オンノジ』からは『サナギさん』と同様にもらえました
「もし木魚で人を」
こういうちょっと大人が子供に考えてほしくないと考えるような部分があるのも児童文学っぽい。中学生の時に出会いたかった一冊。